駒のいななきについて

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古代国語の音韻研究で知られる橋本進吉博士の小論に「駒のいななきについて」と題する一篇がある。現代の日本人が、馬のいななく声を「ヒイン」と聞き分け、かつそのように表記するのに対して、古代の日本人がそれを「イイン」と表記していたことをとりあげ、現代日本語において「は」行に相当する音が、古代の日本語には存在していなかったことを論証したものである。

では。古代「はひふへほ」と表記されたものはどんな音だったかというと、それは「fa fi fu fe fo」に相当する音だったというのである。Faという音は、唇をすぼめ、その間から音を出すもので、音韻の分類上では唇音に属するものである。一方現代語における「は」行の音は、咽頭で発した音をそのまま口蓋から表出するもので、口蓋音に分類されている。したがって、同じく「はひふへほ」と表記されても、古代と現代とでは、音の実態は異なっているというのである。

馬のいななく声は、古代も現代も変わってはおらぬだろうから、古代人はhiinという馬の鳴き声を文字に表すのに、もっとも近い音として、「ひいん=fiin」ではなく、「イイン=iin」を選んだ、あるいは耳でもそのように聞いていたかもしれない。

「は」行の音が現在と同じになったのは、徳川時代以降のことらしい。ほとんど咽頭部だけを用いて発するこの音は、英語やドイツ語にも存在するが、フランス後やイタリア語には存在せず、hという文字はあっても、それは無視され、母音と同じく発音される。また、ロシア語や中国語にあっては、日本人には「は」行に聞こえる音は、hとkの中間の音であり、口蓋の奥の部分を摩擦してできる音である。

「は」行の音が、悠久の時をまたいで、fa fi fu fe foと発せられていたことの歴史的な重みは、現代の日本語にも様々な余韻を残している。

上述のとおり、Fa fi fu fe foは、両唇をもちいて発する音である。一方Pa pi pu pe poとba bi bu be boもまた両唇を衝突させてできる音である。この点で、「は」行、「ぱ」行、「ば」行の三者は発音上共通する音であるといえる。Bはfの濁音であり、pは半濁音と位置づけることができるからである。日本語がこの三者に共通の文字をあててきたのには、音韻の歴史の中に根拠があったのである。

「は」行、「ぱ」行、「ば」行の三者の関係については、現代語の中にも面白い現象を認めることができる。たとえば、「説法」や「気張る」といった言葉を分析すると、「ほう」が転じて「ぽう」となり、「はる」が転じて「ばる」となっている。大方の音韻の法則を基準とすれば、口蓋音が唇音に転化することは考えられない。この現象は、「は」行が唇音であったことの、歴史的な残渣なのである。

さらに、ものを数えるのに、一把二把三把十把などといい、それぞれ、「イチワ」「ニワ」「サンバ」「ジッパ」と発音することがある。これなども同じ転化のプロセスだといえる。この場合には、「は」行が「わ」行に転じているが、「は」を「ワ」と発音するようになる過程については、別のところで論じたい。


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    このページは、が2006年10月 1日 08:42に書いたブログ記事です。

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