大人が子どもをどう育てるか、それは民族の根幹をなすことである。また、子どもが大人たちの築き上げた世界をどう受容するか、それは民族の行く末を方向づけるもとである。子どもは小さな大人ではない。彼らは無限の可能性をたたえた器であり、民族の、ひいては宇宙の鏡である。
ところがいま、日本の子どもたちは、危うい状況にとり籠められつつあるのではないか。
親が自分の生んだ実の子を虐待する、あげくにはそのあまりに子殺しをする。かと思えば子どもの世界でも、弱いものいじめが蔓延し、いじめから自殺する子が絶えない。こんな話に接するにつけ、この国はどうなっているのだろうと、筆者は憂慮を禁じえないのだ。
子を虐待する親は、昔からいなかったわけではない。しかし、近年の児童虐待は、頻度の多さもさることながら、その動機というか、引き金になったものに、うすら寒さを感ずる。
心理学者にいわせると、自分が親からひどい仕打ちを受けたものは、自分の子に対しても、同じようにひどい仕打ちをする傾向が強いという。しかし、最近の児童虐待事件を見ると、そこには、人の親としての情愛を、まったく認められないようなものが多いのである。
先日も、新しい男とねんごろになった母親が、幼い子を邪魔扱いにして、殺してしまうという事件があった。そのつい前には、躾と称して、幼いものにひどい体罰を加え続けた事件もあった。彼らに共通しているのは、自分中心の身勝手さであり、自分の快楽のためには、我が子を殺してなお、悔いないというおぞましさがある。
松本清張の短編小説で、映画にもなった作品に、「鬼畜」というのがある。この作品では、亭主のめかけが残していった子どもたちを、本妻が憎んで虐待するさまが描かれているのだが、その虐待振りが余りにもひどいというので、映画を見た人々はショックを受け、「鬼畜」という表現に納得した。この映画の舞台となった時代は、戦後まもなくの、日本中が貧しい頃だったから、子殺しの背景には、時代の殺伐とした雰囲気もあった。そうした雰囲気の中で、父親も本妻への気兼ねから、我が子を手にかけようとするのだが、さすがに恩愛の念にさいなまれるのである。
しかし、今は実の母親が、平然として我が子を殺す。母親に殺される子の気持は、人倫のよく説きうるところではない。孟子にしてなお、絶句するほか、どんな言葉があるというのだろう。
「鬼畜」の書かれた時代は、殺伐とはしていたが、子殺しはありえぬことだった。今の時代の何が、こんなにも人の心を荒廃させたのか。
子ども同士のいじめもまた、近頃の社会を暗く彩っている。
いじめといわれる現象も、昔からあったものだ。人間の子どもたちは、本来呵責のない生き物であるから、自分の気に入らないものを排除したり、暴力を加えることは、ままある。しかし、傷つけられた者が、死を選ぶほか道はないと思いつめるほど悲惨な事態は、今までの日本の社会は経験したことがなかった。
いじめの度合いもますますエスカレートし、善悪は無論、人としてあるべき姿に、見境のつかないものまで現れている。弱い者を脅かして、自分たちの遊ぶための金を巻き上げるような、グロテスクな子どもまで出てくる始末である。
親たちを子殺しに走らせているのと同じような事情が、子どもの世界にも広がっているのだろうか。自分のことしか考えられず、他者への配慮に欠けた人間ほど、おぞましい生き物はない。
とまれかくあれ、子どもが自殺するなど、この世の摂理のうちといえるだろうか。そんな社会があるとしたら、どんな風に呼んだらいいのか。病んだ社会というのも、ただれきった社会というのも、空々しく聞こえるだろう。
関連リンク: 日々雑感
犯罪が増えたのでは犯罪報道が増えたのです。
実は現代ほど子殺しが少ない時代はないです。
日本では明治以前は間引きがありましたし、昭和期にはコインロッカーベイビーなんて言葉もはやりました。
子殺しは激減してます。
http://kangaeru.s59.xrea.com/G-baby.htm
既婚女性が最も気にする子供殺しは昭和50年には約500件だったのが現在は約100件に減少。
しかも現代の子殺しの犯人はほとんどが親や身内で他人が犯人のケースは年間10件程度です。
あと先進国より途上国の方が当然子殺しは多いです。
凶悪犯罪は激減してます。
犯罪が増えているように感じるのは単に異常な事件だけを抽出し何度も何度も報道する
報道のセンセーショナル化が原因です。
サリン事件以降、マスコミにとって犯罪報道は「安価で企画もいらず数字を取れるコンテンツ」と認識されてます。
つまり犯罪が増えたのではなく犯罪報道が増えたのです。
殺人は昭和中期の半分以下、強姦は1/3以下に激減してます。
子殺しは激減している。
http://kangaeru.s59.xrea.com/G-baby.htm
既婚女性が最も気にする子供殺しは昭和50年には約500件だったのが現在は約100件に減少。
しかも現代の子殺しの犯人はほとんどが親や身内で他人が犯人のケースは年間10件程度です。
あと日本は明治以前には間引きなんて習慣もありましたし、昭和中期~後期にはコインロッカーベイビーなんて言葉も流行りました。
実を言うと現代ほど子供が殺される数が少ない時代はないです。