男にも更年期障害というものがあるらしい。女の場合のようなドラスチックな身体的変化という形では現れないが、やはり50を過ぎた頃より、心身にわたり著しい機能低下に悩む男は多く、性欲の減退、勃起不全、消耗感、甚だしきはうつ状態といった症状が現れる。従来は加齢のせいと思われていたこれらの症状が、実は男性ホルモンの失調によるものだと、最近の研究で徐々にわかってきたらしいのである。
女の場合には、50を境にした前後5年ほどの間に、女性ホルモン・エストロゲンが急速に減少し、その結果様々な心身の変化が現れる。閉経はその象徴的な出来事である。これに対し、男の場合には、男性ホルモン・テストステロンの減少は30頃から徐々に始まる。女と違って、減少のペースは緩やかで、せいぜい年に1パーセントくらいである。しかも個人差が大きい。
ハーバード大学医学チームの研究によれば、血液中のテストステロン濃度が、1デシリットル当たり200ナノグラムを下回ると、更年期障害というべき症状が発生する。逆に400ナノグラム以上であれば、その心配はない。
この発見から、男の更年期障害に対して、ホルモン療法が用いられるようになってきた。不足したテストステロンを補充するのである。補充の仕方としては、膏薬を貼る(皮膚から吸収)、ゼリー剤を服用する(これは黴臭いらしい)、筋肉注射をする、等がある。一時期錠剤も用いられたが、肝臓と腎臓に重い副作用を及ぼすことがわかり、現在では禁止されている。
副作用のおもなものは、血栓とそれによる循環器障害、特に心臓病である。前立腺の肥大化と前立腺癌の発生も見逃せない。また、異常ないびきや、睡眠時無呼吸症候群を引き起こすこともある。これらは、テストステロンの過剰が原因なので、ホルモン療法を受けるに当たっては、常に血液のチェックが欠かせない。
だが、これらのリスクを考慮しても、ホルモン療法による更年期障害の治療は大きな利点がある。アメリカでは、最近1年間に、230万通の(ホルモン薬の)処方箋が発行されたが、その殆どは、夫婦間の幸福増大に結びついているという。
更年期障害に似た症状は、ほかの原因から起こることもある。アルコール依存、肝臓や腎臓疾患、心肺機能の低下などがその主なものである。
人によっては、テストステロンの値は正常なのに、これらの症状が現れる場合がある。逆に、テストステロンが著しく不足しているのに、症状の現れない人もいる。
一般に、テストステロンの値が極端に不足するのは65歳以上の男である。しかし、実際にホルモン療法を受けているものは、殆どが50歳から65歳までの男である。これらの男たちには、機能を回復すべき、切実な理由があるからだろう。
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