ヨーロッパの世代間格差：ベビールーザーたち

同じような病理現象はヨーロッパ社会でも進行しつつあるらしい。そこでは、国民の中の格差は、階層間ではなく、世代間に生じていると、最近のニューズウィーク誌の記事が伝えている。“Europe's Generation of Losers : The continent's boomers are retiring, leaving a bitter legacy for the generation that comes next, which increasingly feels locked out of the European dream. By William Underhill and Tracy McNicoll”

記事によれば、フランスでは、30歳の若者の所得は、1975年には50歳の人の85パーセントだったものが、今日では60パーセントに落ちている。また、大学を卒業しても2年間就職できないものが、6パーセントから25パーセントに増えた。2001年の統計では、30歳の若者の貯蓄率は9パーセントであったが、その6年前には18パーセントあった。こんなわけで、フランスの若者たちは厳しい現実に直面している。その傾向は、イギリスやドイツでも大同小異らしい。

今年はフランスにとって大統領選挙の年。若者たちの不満を前に、候補者たちはなだめるのに躍起だ。ニコラ・サルコジは、若者の職業訓練のために月額300ユーロの手当を約束し、社会党のセゴレーヌ・ロワヤールも同じようなバラまきを公約している。だが、彼らの言い分をまともに評価する若者はいない。

西ヨーロッパ諸国は戦後、きわめて高い成長を持続し、それを背景に手厚い社会保障制度を築きあげてきた。ところが今、成長は頓挫し、社会保障のための巨額の借金が残った。これまで成長の果実に預かってきた戦後のベビーブーマーたちは、今や退職の年齢を迎え、年金はじめ手厚い社会保障を享受しようとしている。ところが若者たちは、運よく定職についたとしても、膨大な借金の請求書を突きつけられるだけだ。

今日の若者たちの中心は、戦後のベビーブーマーの子どもたちだ。彼らはその不運を、親の世代の幸運と対比されて、ベビールーザー”Baby Loser”と呼ばれている。結婚して子どもをもうけるという、人間として当たり前のことがなかなかできない、そんなところから付けられたニックネームである。ベビールーザーたちは今日の政治家を信用しない。政治家の殆どはベビーブーマーであり、彼らは決して自分たちの世代の利害を裏切らないからだ。

日本と異なり、西ヨーロッパ諸国では、労働者の定年が早い。彼らは長く働き続けるより、早く引退して手厚い年金を貰う方を択ぶ。この傾向が続くと、遅かれ早かれ年金財政がパンクすることは目に見えている。改革は避けられない勢いだが、この問題にまともに取り組む政治家はいない。

西ヨーロッパ諸国の中でも、スペインとアイルランドは事情が異なるらしい。若者の失業は少なく、国の経済も底堅い。だがこの両国でも、若者たちの住宅取得は厳しくなってきているという。

西ヨーロッパ全体を通じていえることは、若者の親への依存が強まっていることだ。今日のイタリアでは、30代前半の男女のうち、実に45パーセントが親の家に住み、ママの手作りの料理を食べ続けている。フランスでは、24歳の若者の65パーセントが親と同居している。比較的ましなイギリスでも、若者が一人前に独立する年齢は、1976年の26歳から、今日では34歳までに高まった。

社会全体の公平という点では、資源を世代間、階層間に再配分することが必要だろう。だが、若者たちは親たちの世代の所得が減ることを望んではいない。彼らはただ、自分たちの不運に我慢がならないだけだ。

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