愛する女へのバラード(ヴィヨン:遺言の書)

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母親の次に、ヴィヨンが選んだ遺贈の相手は昔の女。ヴィヨンの女遍歴については、色々と説がある。ヴィヨンのはじめて引き起こしたトラブルは女が絡んだものだったし、放浪の身となるにあたって決定的となった事件にも女がからんでいた。

最初の事件の女に対しては、ヴィヨンは「形見分け」のなかで散々毒づいている。「遺言の書」に出てくるこの「愛する女」がどの女をさすのかはわからぬが、おそらく二度目の事件の原因となった女なのだろう。もしそうなら、その女の名はカトリーヌというが、ヴィヨンは女の名には触れていない。


(愛する女へのバラード:拙訳)

  あの女の美しさが俺を苦しめるのだ
  気難しくも優美な偽善者
  気性ときては鉄よりも硬く
  俺を悩ますためにあるようなもの
  あいつの魅力が俺を殺す
  気位の高さが破滅を呼ぶ
  容赦のない目が射すくめる
  哀れな男を救ってくれ

  いっそ誰かに助けてもらおう
  プライドも自尊心もない
  だがどこに助けを求める
  そんなものなどどこにもいない
  帯に長けりゃ襷に短い
  もはや死ぬしかないものか
  それとも慈悲にすがろうか
  哀れな男を救ってくれ

  お前もやがては萎れる日が来る
  花のかんばせも干からびる
  その時には笑ってやろう
  だが待てよ 愚かなことだ
  お前が年とりゃ 俺も爺
  水は流れるうちに飲み干そう
  だからお前も気取っていないで
  哀れな男を救ってくれ

  愛の王子 偉大な恋人
  俺はあんたにはなれないが
  神の名にかけてお願いする
  哀れな男を救ってくれ

詩の内容を信ずるとすれば、ヴィヨンの愛は報われぬものだったようだ。


(フランス語原文)
Grand Testament : Ballade à s'amie

  Fausse beauté qui tant me coûte cher,
  Rude en effet, hypocrite douleur,
  Amour dure plus que fer à mâcher,
  Nommer que puis, de ma défaçon seur,
  Cherme félon, la mort d'un pauvre coeur,
  Orgueil mussé qui gens met au mourir,
  Yeux sans pitié, ne veut Droit de Rigueur,
  Sans empirer, un pauvre secourir ?

  Mieux m'eût valu avoir été sercher
  Ailleurs secours, c'eût été mon honneur ;
  Rien ne m'eût su hors de ce fait hâcher :
  Trotter m'en faut en fuite et déshonneur.
  Haro, haro, le grand et le mineur !
  Et qu'est-ce ci ? Mourrai sans coup férir ?
  Ou Pitié veut, selon cette teneur,
  Sans empirer, un pauvre secourir ?

  Un temps viendra qui fera dessécher,
  Jaunir, flétrir votre épanie fleur ;
  Je m'en risse, se tant pusse mâcher,
  Las ! mais nenni, ce seroit donc foleur :
  Vieil je serai, vous laide, sans couleur ;
  Or buvez fort, tant que ru peut courir ;
  Ne donnez pas à tous cette douleur,
  Sans empirer, un pauvre secourir.

  Prince amoureux, des amants le graigneur,
  Votre mal gré ne voudroie encourir,
  Mais tout franc coeur doit, par Notre Seigneur,
  Sans empirer, un pauvre secourir.


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    このページは、が2007年5月 3日 18:40に書いたブログ記事です。

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