逆説のバラード:フランソア・ヴィヨン

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フランソア・ヴィヨンは、大小のテスタメント(「形見分け」と「遺言の書」)のほかに、雑詩篇と呼ばれる独立の詩篇十数編を残している。最も有名なものは「吊るされ人のバラード」である。そのほかに「逆説のバラード」とか「矛盾のバラード」とかいった、挑発的な題名の作品がある。

ヴィヨンの詩には、その生涯を物語るかのように、常軌を逸した風袋のものが多い。「逆説のバラード」は、その最たるものである。

これを読んだ現代人は、どういう意味合いがあるのか、とんと検討もつかぬであろう。駄洒落にしては念が入りすぎているからである。しかし、ヴィヨンの生きたルネッサンスという時代にあっては、こうしたナンセンスも意味をもっていたのである。

歌われているのは、さまざまなあべこべについてである。飢えているときが安心で、やさしいものは敵ばかり、女は風呂桶の中で産気づき、殴られた後ほど笑いたくなる、こうしたあべこべの世界は、カーニバルを飾る馬鹿騒ぎそのものだったのである。

中世・ルネッサンス時代の民衆は、カーニバルの祝祭の中で、上と下、神聖なものとろくでもないもの、王様と道化をごちゃ混ぜにすることによって、秩序の破壊と再建、死と再生を、身をもって体験していた。

ヴィヨンのこの詩には、そうしたカーニバル的な祝祭感覚があふれていると、見られるのである。


(逆説のバラード:拙訳)

  世に飢えてる時ほど安心な時はなく
  優しくしてくれるのは敵ばかり
  食うものば秣に如くはなく
  見張りはみな居眠りばかり
  寛大な奴ほど無信心で
  確かなのは臆病さだけ 
  信仰は異端の心に宿り
  頼りがいのあるのは女たらしだけ

  女が産気づくのは風呂桶の中
  名声は罪びとの背後にあり
  殴られた後ほど笑いたくなり
  借金を踏み倒す奴ほど評判がよい
  本当の愛はおべっかの中にあり
  出会いは常に不運の始まり
  嘘ほど誠実なものはなく
  頼りがいのあるのは女たらしだけ

  世に休息は不安のうちにもたらされ
  “ちぇ”といっては面目を保つ
  贋金のほかに自慢の種はなく
  健康な体は水ぶくれ
  高望みをすれば卑怯者となり
  思案には怒りが付きまとわる
  心から優しい女は尻軽で
  頼りがいのあるのは女たらしだけ

  本当のまた本当を申そう
  女と寝るのは病気のときだけ
  芝居のなかにしか真実はなく
  騎士気取りはみな卑劣だ
  旋律といえばいやな音ばかり
  頼りがいのあるのは女たらしだけ


(フランス語原文)
Ballade des contre-vérités

  Il n'est soin que quand on a faim
  Ne service que d'ennemi,
  Ne mâcher qu'un botel de fain,
  Ne fort guet que d'homme endormi,
  Ne clémence que félonie,
  N'assurance que de peureux,
  Ne foi que d'homme qui renie,
  Ne bien conseillé qu'amoureux.

  Il n'est engendrement qu'en boin
  Ne bon bruit que d'homme banni,
  Ne ris qu'après un coup de poing,
  Ne lotz que dettes mettre en ni,
  Ne vraie amour qu'en flatterie,
  N'encontre que de malheureux,
  Ne vrai rapport que menterie,
  Ne bien conseillé qu'amoureux.

  Ne tel repos que vivre en soin,
  N'honneur porter que dire : "Fi !",
  Ne soi vanter que de faux coin,
  Ne santé que d'homme bouffi,
  Ne haut vouloir que couardie,
  Ne conseil que de furieux,
  Ne douceur qu'en femme étourdie,
  Ne bien conseillé qu'amoureux.

  Voulez-vous que verté vous dire ?
  Il n'est jouer qu'en maladie,
  Lettre vraie qu'en tragédie,
  Lâche homme que chevalereux,
  Orrible son que mélodie,
  Ne bien conseillé qu'amoureux.


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