書簡のバラード:フランソア・ヴィヨン

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フランソア・ヴィヨンは、シャルル・ドルレアン公と別れブロア城を出た後も放浪を重ね、コキャール党と呼ばれる盗賊団の一員となったようだが、1461年に捕らえられて、マン・シュル・ロアールの監獄にぶち込まれた。

そのときに、ヴィヨンは監獄の土牢の中から、仲間たちにあてて、救いを求める書簡体のバラードを贈った。詩を読むと、この盗賊団が多彩な人間たちから構成されていたことがわかる。

なお、フランソア・ラブレー第四之書「パンタグリュエル物語」には、ヴィヨンとその役者仲間の話が出てくる。衣装を貸してくれと頼んだのに断られたケチな修道僧を、さんざんにこらしめるという内容の話である。この話の中では仲間たちは盗賊とはなっていないが、愉快で気のいい連中として描かれている。実際のコキャール党も、そのようなものだったのかもしれない。

この詩の効用とは別な理由で、ヴィヨンは釈放された。1461年10月、ルイ11世の戴冠記念の恩赦が実施され、ヴィヨンもその恩恵にあずかったのである。


(書簡のバラード:拙訳)

  親愛なる友よ 諸君の慈悲を我に給え
  少しなりとも 我のために
  我は今木陰ならぬ土牢のうちにあり
  追放の身となってかかる憂き目
  これも運命と神のおぼしめしながら
  愛らしい娘たちや若々しい小僧たち
  踊り子たちや芸人たち
  投槍よりもすばやく走る者どもたち
  鈴のような喉が自慢の歌い手たち
  我に手を差し伸べよ この哀れなヴィヨンに

  楽しそうに歌う歌姫たち
  颯爽と笑っている色男たちよ
  贋金を持たずに歩きまわる輩ども
  洒落男に間抜け野郎
  のんびりしては手遅れになる
  心優しい詩人たちよ
  死んじまっては気付け薬も役に立たぬ
  稲妻もつむじ風も入ってこない
  厚い壁の中に閉じ込められた我
  我に手を差し伸べよ この哀れなヴィヨンに

  惨めな俺を見に来てくれ
  脱税犯の貴族たちよ
  皇帝や王侯には何の借りもなく
  神にのみ服属するものたちよ
  日曜も火曜も断食したおかげで
  俺の歯は熊手の歯より長くなった
  まずい乾パンを食った後は
  胃袋に水をたらしこむざま
  土の上に這いつくばり テーブルも何も持たない我
  我に手を差し伸べよ この哀れなヴィヨンに

  名も高き王侯たちよ
  我のために赦免状を交付せしめ
  もっこに載せて引き上げてくれ
  豚どもでさえそのようにして助け合う
  一匹が泣けばみな手を伸べようと集まるものだ
  我に手を差し伸べよ この哀れなヴィヨンに


(フランス語原文)
Epître à mes amis

  Ayez pitié, ayez pitié de moi,
  A tout le moins, s'il vous plaît, mes amis !
  En fosse gis, non pas sous houx ne mai,
  En cet exil ouquel je suis transmis
  Par Fortune, comme Dieu l'a permis.
  Filles aimant jeunes gens et nouveaux,
  Danseurs, sauteurs, faisant les pieds de veaux,
  Vifs comme dards, aigus comme aiguillon,
  Gousiers tintant clair comme cascaveaux,
  Le laisserez là, le pauvre Villon ?

  Chantres chantant à plaisance, sans loi,
  Galants riant, plaisants en faits et dits,
  Coureux allant francs de faux or, d'aloi,
  Gens d'esperit, un petit étourdis,
  Trop demourez, car il meurt entandis.
  Faiseurs de lais, de motets et rondeaux,
  Quand mort sera, vous lui ferez chaudeaux !
  Où gît, il n'entre éclair ne tourbillon :
  De murs épais on lui a fait bandeaux.
  Le laisserez là, le pauvre Villon ?

  Venez le voir en ce piteux arroi,
  Nobles hommes, francs de quart et de dix,
  Qui ne tenez d'empereur ne de roi,
  Mais seulement de Dieu de paradis ;
  Jeûner lui faut dimanches et merdis,
  Dont les dents a plus longues que râteaux ;
  Après pain sec, non pas après gâteaux,
  En ses boyaux verse eau à gros bouillon ;
  Bas en terre, table n'a ne tréteaux.
  Le laisserez là, le pauvre Villon ?

  Princes nommés, anciens, jouvenceaux,
  Impétrez-moi grâces et royaux sceaux,
  Et me montez en quelque corbillon.
  Ainsi le font, l'un à l'autre, pourceaux,
  Car, où l'un brait, ils fuient à monceaux.
  Le laisserez là, le pauvre Villon ?


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