音楽につれて:ランボー、ブルジョアを皮肉る

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アルチュール・ランボーの詩「音楽につれて “A La Musique”」は、ランボーがイザンバールにあてた1870年の手紙の中に収められているから、おそらくその直前に書かれたのであろう。

この詩の中で、ランボーはシャルルヴィルのブルジョアたちを皮肉っている。当時のフランスは、台頭する隣国プロシャとの間で、一触即発の状態にあった。もし戦争が勃発すれば、プロシャと国境が近いシャルルヴィルは前線になる。

シャルルヴィルのブルジョアたちは、そんなことにはお構いないように、日常の生活に浮かれている。15歳の少年ランボーには、そんな風景がおぞましく映ったのだろう。

ランボーは、イザンバールの影響もあって、共和主義者になっていたらしい。少年の目には、ブルジョアたちが我慢できなかったのかもしれない。


(音楽につれて:拙訳)

  四角い芝に区切られた街の広場
  植木も花壇も整然とした広場には
  日曜ともなればブルジョワどもが集まってくる
  暑い癖して涼しげ顔の俗物ども

  花壇の真ん中には軍楽隊の若い衆
  横笛でワルツを吹きながら帽子をいじくってら
  見物人の最前列でのさばっている親父ときたら
  音楽を聴くより安物を見せびらかすのに忙しそう

  鼻眼鏡の旦那たちは軍楽の調子っぱずれを一々批判
  町の役人たちはデブの女房を連れておつきあいだ
  そのうち象使いどもがあらわれた
  奴らの衣装ときたら広告塔のようなけばけばしさだ

  緑色のベンチは隠居たちの社交場
  丸い握りの付いた杖で砂をかき回しては
  当節の条約論議に花を咲かせる
  かぎタバコをかぎながら、「つまるところは!」

  でっかいケツでベンチを占領した
  布袋腹の服にはボタンがきらりと光っている
  やおらパイプに口をつけるとタバコの灰がこぼれ落ちた
  親父がいうにはこれは密輸品の上物だそうだ

  芝生に沿ってチンピラどもが練り歩く
  こいつらトロンボーンの音に恋心を煽られたか
  がらにもなく大人しくバラの香をかいだりして
  子守娘の気を引こうとまず赤ん坊を手なずけにかかった

  俺はといえば格好は学生みたいにだらしないながら
  マロニエの木陰で 行きかう女たちを物色する
  女たちはそんな俺を笑いながら振り向くが
  その目には淫乱な欲望がいっぱいだ

  俺は言葉を発することなく
  後れ毛のまとわり付いた女たちのうなじを眺めた
  また胸の膨らみの内側や薄っぺらな衣装を見ては
  丸い肩の曲線につながる背中のあたりを思い浮かべた

  俺は更に視線を落として女たちの足に目をやる
  熱でほてった女たちの裸体を透視する
  そんな俺を変だと思うのは無理もないが
  俺の欲望は女たちの唇の味までありありと感ずるのだ

ブルジョアたちを皮肉りながら、娘たちの肉体に思いをいたすことを忘れていない。ランボーは丁度思春期に差し掛かった少年だったのだ。


(フランス語原文)
A La Musique par Arthur Rimbaud

  Sur la place taillée en mesquines pelouses,
  Square où tout est correct, les arbres et les fleurs,
  Tous les bourgeois poussifs qu'étranglent les chaleurs
  Portent, les jeudis soirs, leurs bêtises jalouses

  - L'orchestre militaire, au milieu du jardin,
  Balance ses schakos dans la Valse des fifres :
  - Autour, aux premiers rangs, parade le gandin ;
  Le notaire pend à ses breloques à chiffres

  - Des rentiers à lorgnons soulignent tous les couacs :
  Les gros bureaux bouffis traînent leurs grosses dames
  Auprès desquelles vont, officieux cornacs,
  Celles dont les volants ont des airs de réclames ;

  -Sur les bancs verts, des clubs d'épiciers retraités
  Qui tisonnent le sable avec leur canne à pomme,
  Fort sérieusement discutent les traités,
  Puis prisent en argent, et reprennent : "En somme !..."

  Epatant sur son banc les rondeurs de ses reins,
  Un bourgeois à boutons clairs, bedaine flamande,
  Savoure son onnaing d'où le tabac par brins
  Déborde - vous savez, c'est de la contrebande ; -

  Le long des gazons verts ricanent les voyous ;
  Et rendus amoureux par le chant des trombones,
  Très naïfs, et fumant des roses, les pioupious
  Caressent les bébés pour enjôler les bonnes..

  - Moi, je suis, débraillé comme un étudiant
  Sous les marronniers verts les alertes fillettes :
  Elles le savent bien ; et tournent en riant,
  Vers moi, leurs yeux tout pleins de choses indiscrètes

  Je ne dit pas un mot : je regarde toujours
  La chair de leurs cous blancs brodés de mèches folles :
  Je suis, sous le corsage et les frêles atours,
  Le dos divin après la courbe des épaules

  J'ai bientôt déniché la bottine, le bas...
  - Je reconstruis les corps, brûlé de belles fièvres.
  Elles me trouvent drôle et se parlent tout bas...
  - Et mes désirs brutaux s'accrochent à leurs lèvres...

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    このページは、が2007年6月13日 19:45に書いたブログ記事です。

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