ロマン:ランボーの恋心

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アルチュール・ランボーといえば男色のイメージが強く、子どもの頃から肛門への偏愛を垣間見せてもいたのであるが、女性に対する関心が全くなかったかといえば、そうでもないらしい。

「ロマン」という詩は、そんなランボーが若い女性に寄せた恋心の歌である。詩の中で「俺はもう17歳」などといっているが、これを書いたとき、ランボーはまだ16歳になったかどうかという少年だったのである。その早熟ぶりには、あらためて感心させられる。


(ロマン:拙訳)

          Ⅰ
  お利巧さんではいられないさ 俺はもう17歳
  素敵な夕べ ビールもレモネードももうあきた
  カフェときたら騒々しく ギラギラとやかましい
  一列に並んだライムの木陰をそぞろ歩こう

  6月の素敵な夕べに ライムが良い匂いを放つ
  誰だってうっとりして目を閉じるさ
  風は街の音を運びながら
  ワインやビールの匂いも運んでくる

          Ⅱ
  誰かがスカートの皴を直しているぞ
  小枝模様の群青色のスカートには
  凶つ星がついていて 柔らかく震えながら
  ちっぽけな白い光芒を放っていった

  6月の夕べ 17歳 うっとりするね
  シャンパンの気付のおかげで いい気持ち
  そぞろ歩けば やおら接吻を感ずるんだ
  野生の生き物のように震える唇の先に

          Ⅲ
  俺の狂った頭はロビンソン・クルーソーの筋をたどる
  ランプの淡い光を目で追い求めていくと
  ひとりの少女が通りがかって一瞥をくれた
  一緒の親父がカラー越しに様子を伺う

  あいつは俺のナイーブさを見抜いたらしく
  ブーツに包んだ足をくるりと回し
  俺のほうに向きかえると肩をすぼめて見せた
  カバティーナの鼻歌をうなってる場合じゃないぞ

          Ⅳ
  俺は恋に陥った 8月まではさめないだろう
  恋する俺は女のためにソネットを作る
  友人たちは俺を見捨てる 俺のことを変だというんだ
  だがある夕べ 女が俺に手紙をくれた

  その夕べ 俺はカフェに舞い戻り
  ビールとレモネードを注文した
  お利巧さんではいられないさ 俺はもう17歳
  ライムの木も一列に並んで青々としているのさ

一説によると、この詩に歌われた女性は、カルロポリテーヌという若い女性であったらしい。


(フランス語原文)
Roman : Arthur Rimbaud 29 sept. 70

          I
  On n'est pas sérieux, quand on a dix-sept ans.
  - Un beau soir, foin des bocks et de la limonade,
  Des cafés tapageurs aux lustres éclatants !
  - On va sous les tilleuls verts de la promenade.

  Les tilleuls sentent bon dans les bons soirs de juin !
  L'air est parfois si doux, qu'on ferme la paupière ;
  Le vent chargé de bruits - la ville n'est pas loin -
  A des parfums de vigne et des parfums de bière....

          II
  -Voilà qu'on aperçoit un tout petit chiffon
  D'azur sombre, encadré d'une petite branche,
  Piqué d'une mauvaise étoile, qui se fond
  Avec de doux frissons, petite et toute blanche...

  Nuit de juin ! Dix-sept ans ! - On se laisse griser.
  La sève est du champagne et vous monte à la tête...
  On divague ; on se sent aux lèvres un baiser
  Qui palpite là, comme une petite bête....

          III
  Le coeur fou Robinsonne à travers les romans,
  Lorsque, dans la clarté d'un pâle réverbère,
  Passe une demoiselle aux petits airs charmants,
  Sous l'ombre du faux col effrayant de son père...

  Et, comme elle vous trouve immensément naïf,
  Tout en faisant trotter ses petites bottines,
  Elle se tourne, alerte et d'un mouvement vif....
  - Sur vos lèvres alors meurent les cavatines...

          IV
  Vous êtes amoureux. Loué jusqu'au mois d'août.
  Vous êtes amoureux. - Vos sonnets La font rire.
  Tous vos amis s'en vont, vous êtes mauvais goût.
  - Puis l'adorée, un soir, a daigné vous écrire...!

  - Ce soir-là,... - vous rentrez aux cafés éclatants,
  Vous demandez des bocks ou de la limonade..
  - On n'est pas sérieux, quand on a dix-sept ans
  Et qu'on a des tilleuls verts sur la promenade.


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