猫の祖先:ワイルドキャットから飼い猫へ

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現在地球上には6億匹の飼い猫 House Cat が暮らしているそうだ。(無論野良猫も数に含む)従来これらの猫たちの祖先はエジプトに発祥したのだろうと思われていた。しかし3年前にキプロス島で発見された猫の遺骸をめぐり、それがエジプト文明よりはるか以前に、トルコ経由でキプロス島に渡ってきたことが実証されて、この説は覆った。

その後のDNAによる研究によると、猫の祖先は中近東に生まれたということらしい。アメリカのドリスコル Carlos A Driscoll 博士らの研究グループは、ワイルドキャットと飼い猫のDNAを比較研究した結果、現代の世界中の猫の祖先は、ほぼ1万年前に中近東で生きていた5匹のワイルドキャット (Felis silvestris lybicaという種類) であったことを突き止めたという。

現存しているワイルドキャットには五つの種類がある。ヨーロッパ・ワイルドキャット、中近東・ワイルドキャット、南アフリカ・ワイルドキャット、中央アジア・ワイルドキャット、中国砂漠猫である。これらのDNAと猫のDNAを比較研究した結果、猫のDNAはすべて中近東・ワイルドキャット( Felis silvestris lybica 別名リビア猫)とのみ共通している。しかも、それら現存する猫の遺伝子には5つのパターンがあり、それらは、母から娘へとメスの系列の中で受け継がれてきた。

こうした事実をもとに、博士らのグループは、飼い猫の祖先はほぼ1万年前の中近東のどこかにおいて、ワイルドキャットが飼い猫化した結果生まれたのだろうと結論付けたのである。それらのうちの5匹のメスのワイルドキャットが次々と子供を生み、それらの子孫が繁栄を重ねるうちに、今日地球上に生息する6億匹の猫につながったのだろう、こうも博士らは考えた。

ところで、1万年前といえば、人類の祖先が狩猟や採集中心の生活から耕作へと移り変わる節目の時期にあたっている。人々は小麦、大麦、ライ麦といった穀物を生産し、それを蔵に貯蔵するようになった。それを求めてねずみの類が引き寄せられてきたのは自然である。そこへたまたまやってきたワイルドキャットたちは、自分たちに都合のよい環境を見出した。つまり、大型肉食獣に食われる危険から身をかわすことが出来、しかも食料になるねずみはいくらでもいたからである。

人間のほうでも、ワイルドキャットたちはねずみどもを食い散らしてくれるし、子猫たちは子どもたちの人気者になったので、ワイルドキャットを追い払おうとはしなかった。こうしてワイルドキャットたちはハウスキャットに変身して、安全な環境の中で子孫を残していくことが出来たのである。

他の家畜と違って、猫が気ぐらいの高い生き物であるのは、出発点におけるこうした事情に基づいている。他の動物は人間の都合によって家畜化されたのに対して、猫は自分の都合から人間と共存することを選んだのだ。

今日地球上に生きるワイルドキャットは、おおかたが絶滅の危機に直面している。その一方で、妹分たる猫たちはますます繁栄の度を強めている。これは動物の種が生存を続けていくことの、歴史的なプロセスの一端を示しているといえないだろうか。

かつては人類にも、同じような進化の分かれ目があったのであるから。

〔参考〕Study Traces Cat’s Ancestry to Middle East By Nicholas Wade : New York Times


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