パリの軍歌:ランボーのコミューン体験

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パリ・コミューンの反乱は1871年の3月18日に始まり、5月28日にティエール政権の仮借ない弾圧の下に崩壊した。2ヶ月間も続いた市民による反乱は、社会主義運動の初めての本格的動きとして、世界史に甚大な影響を及ぼす。

ランボーのパリ・コミューンへの関わりは明らかにされていないが、「パリの軍歌」や「盗まれた心」は、ランボーが何らかの形でこの運動にかかわったのではないかと、推測する材料になっている。

「パリの軍歌」は、ティエールやピカールによって、パリの暴動が鎮圧されたことを歌ったものだ。労働者たちによる革命政府がつぶされ、何万という屍がパリ市内を埋めたのであるが、その傍らで、勝利したティエール政権が記念のパレードでも行ったのであろう。「パリの軍歌」とは、そのパレードの歌をさすようだ。

詩に出てくるティエールは第三共和制臨時政府の首班、ピカールは共和国軍の司令官である。彼らはプロシャとの和平交渉に当たるとともに、労働者による革命政府たるパリ・コミューンを徹底的に弾圧した。

詩は、労働者たちの政府がつぶれて、とりあえず財産権を保障されたブルジョアの安堵を皮肉っている。


―パリの軍歌(拙訳)

  春もうららだ 何故かって
  ティエール殿やピカール殿のおかげで
  財産の所有権もご安泰となったから
  神聖にして不可侵というわけさ

  うららかな五月 陽気な宿無しどもがゆく
  セーブル ムドン バニュー アスニェール
  歓迎の音楽を聞こうじゃないか
  春の気配がいっぱいだもの

  宿無しどもは帽子をかぶり腰にはサーベル
  威勢のいい太鼓は張子じゃないぞ
  小船の作り物までかついでいるな
  血に染まった川を渡ったわけじゃないらしいが

  いつにも増してのお祭気分
  人間どもの群はシロアリのようだ
  黄色い頭がうじゃうじゃとして
  夜明けの街をうろつき歩く

  ティエール殿 ピカール殿は天使さまじゃ
  天使様にして首切り役人さまじゃ
  しかも弁舌さわやかな御仁たちと見える
  なんでもかんでもお切りになさる

  あなた様方は偉大なお方様がたじゃ
  ファーブル殿の名も忘るまいぞ
  アイリスに埋もれて涙をお流しなさる
  ワニの涙のような辛くて実のない涙 

  街中は石ころであふれている
  舗道をはがして投げたやつだ
  畜生 こいつらを手に掴んで
  もう一度あいつらにぶっ放してやりたいもんだ

  道端にへたり込んだ
  どんなに間抜けな田舎者でも
  街路樹の枝が石ころで割られ
  赤い血が吹き出るのに驚くだろう


(フランス語原文)
Chant de guerre Parisien : Arthur Rimbaud

  Le Printemps est évident, car
  Du coeur des Propriétés vertes,
  Le vol de Thiers et de Picard
  Tient ses splendeurs grandes ouvertes !

  0 Mai ! quels délirants cul-nus !
  Sèvres, Meudon, Bagneux, Asnières,
  Écoutez donc les bienvenus
  Semer les choses printanières !

  Ils ont shako, sabre et tam-tam
  Non la vieille boîte à bougies
  Et des yoles qui n'ont jam, jam...
  Fendent le lac aux eaux rougies !

  Plus que jamais nous bambochons
  Quand arrivent sur nos tanières
  Crouler les jaunes cabochons
  Dans des aubes particulières !

  Thiers et Picard sont des Eros,
  Des enleveurs d'héliotropes,
  Au pétrole ils font des Corots :
  Voici hannetonner leurs tropes....

  Ils sont familiers du Grand Truc !...
  Et, couché dans les glaïeuls, Favre
  Fait son cillement aqueduc,
  Et ses reniflements à poivre !

  La Grand'ville a le pavé chaud
  Malgré vos douches de pétrole,
  Et décidément, il nous faut
  Vous secouer dans votre rôle...

  Et les Ruraux qui se prélassent
  Dans de longs accroupissements,
  Entendront des rameaux qui cassent
  Parmi les rouges froissements !


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