虱を探す女たち:アルチュール・ランボー

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ランボーは2度目の家出の際、ドゥーエーのジャンドル家の世話になっている。ジャンドルはイザンバールの親戚であったらしい。ジャンドル家には二人の娘がいて、ランボーは彼女たちの世話を受けた。「虱を探す女たち」は、そんなジャンドル家での思い出を歌ったものである。

この詩は、幼子にたかる虱を、二人の娘たちが指先で探しながら、次々とつぶすシーンを描いている。幼子はランボー自身だという見方もあるし、そうではなく、たまたまランボーが目にした光景を、思い出しながら描いたのだとする見方もある。

ランボーの少年時代は、不潔だったようで、虱をわかせていたとしても不思議ではない。だいぶ後のことだが、ランボーがヴェルレーヌのもとを去ったとき、ヴェルレーヌの妻マチルドは、ランボーのベッドの中から虱を見出し、嫌悪感を新たにしたというエピソードもある。


―虱を探す女たち(拙訳)

  赤ん坊は額を赤く腫れ上がらせ
  夢見心地で必死に求める
  そのベッドにやってきたのは二人の姉たち
  二人とも魅力的で 指は細く爪は銀色

  姉たちが赤ん坊を窓枠の前に座らせると
  窓越しには青い風と花が見えた
  赤ん坊の汗でぬれた髪の中に
  姉たちは指を這わせる 細くて魅力的な指を

  赤ん坊は聞く 姉たちの息遣いを
  蜂蜜のような甘いピンク色の息を
  シューシューという音を立てて唇からツバが散る 
  ぼくにキスしたがってるのかな

  静けさの中で姉たちの睫毛が動く
  しなやかで優しい指は
  赤ん坊の髪の間をまさぐりながら
  爪先で虱どもを捕らえては一つずつつぶしていく

  陶酔のワインが赤ん坊の中で醸成される
  ハーモニカのため息が赤ん坊を興奮させる
  けだるい愛撫が進むにつれて 赤ん坊は
  泣き出したい思いでいっぱいになるのだ


(フランス語原文)
Les Chercheuses de poux : Arthur Rimbaud

  Quand le front de l'enfant, plein de rouges tourmentes,
  Implore l'essaim blanc des rêves indistincts,
  Il vient près de son lit deux grandes soeurs charmantes
  Avec de frêles doigts aux ongles argentins.

  Elles assoient l'enfant devant une croisée
  Grande ouverte où l'air bleu baigne un fouillis de fleurs,
  Et dans ses lourds cheveux où tombe la rosée
  Promènent leurs doigts fins, terribles et charmeurs.

  Il écoute chanter leurs haleines craintives
  Qui fleurent de longs miels végétaux et rosés,
  Et qu'interrompt parfois un sifflement, salives
  Reprises sur la lèvre ou désirs de baisers.

  Il entend leurs cils noirs battant sous les silences
  Parfumés ; et leurs doigts électriques et doux
  Font crépiter parmi ses grises indolences
  Sous leurs ongles royaux la mort des petits poux.

  Voilà que monte en lui le vin de la Paresse,
  Soupir d'harmonica qui pourrait délirer ;
  L'enfant se sent, selon la lenteur des caresses,
  Sourdre et mourir sans cesse un désir de pleurer.


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