至高の塔の歌:ランボーの恍惚

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「至高の塔の歌」は、「涙」や「永遠」とともに、1872年5月、パリのムシュウ・ル・プランス街の屋根裏部屋で書かれた。この部屋のことは、同年6月エルネスト・ドラエイにあてた書簡の中で、ランボーは次のように書いている。

この部屋はサン・ルイ高等学校の庭に面していて、狭い窓の下には大きな木があった。朝方3時になると、ろうそくの火が青ざめ、小鳥たちがいっせいに囀り始める。この部屋でランボーは、夜中から明け方まで創作を続けた。

「言葉の錬金術」の記述の中で、ランボーにとってこの時期は、錯乱と灼熱の過渡的な時期であったと語っている。

「至高の塔」とは、ランボーにとっては、苦悩の果てにたどり着くべき、恍惚の境地であったようだ。


―至高の塔の歌(拙訳)

  俺は爛堕な小僧
  何にでも夢中になり
  余りにナイーブだったせいで
  人生を無駄に使い果たした
  おお!時よ来い
  恍惚の時よ来い

  あるがままであろう
  誰にも見られずにいよう
  約束などせずに
  きままに行動しよう
  何者にも邪魔されず
  堂々と振舞おう

  辛抱ばかりしたために
  何もかも忘れてしまった
  恐れも痛みも
  空の彼方に吹き飛んだ
  得体の知れぬ渇きが
  血の流れを鈍くする

  かくて草原は
  忘却に引き渡され
  かの地で花開く
  乳香やエンドウの花を
  おびただしいハエたちが
  群がって飛び回る

  千の死別も
  貧乏人たちには
  聖母の像のほかには
  見守るものもない
  処女マリアのために
  人は祈りうるだろうか

  俺は爛堕な小僧
  何にでも夢中になり
  余りにナイーブだったせいで
  人生を無駄に使い果たした
  おお!時よ来い
  恍惚の時よ来い


(フランス語原文)
Chanson de la plus Haute Tour : Arthur Rimbaud Mai 1872

  Oisive jeunesse
  À tout asservie,
  Par délicatesse
  J'ai perdu ma vie.
  Ah ! Que le temps vienne
  Où les coeurs s'éprennent.

  Je me suis dit : laisse,
  Et qu'on ne te voie :
  Et sans la promesse
  De plus hautes joies.
  Que rien ne t'arrête,
  Auguste retraite.

  J'ai tant fait patience
  Qu'a jamais j'oublie ;
  Craintes et souffrances
  Aux cieux sont parties.
  Et la soif malsaine
  Obscurcit mes veines.

  Ainsi la Prairie
  À l'oubli livrée,
  Grandie, et fleurie
  D'encens et d'ivraies
  Au bourdon farouche
  De cent sales mouches.

  Ah ! Mille veuvages
  De la si pauvre âme
  Qui n'a que l'image
  De la Notre-Dame !
  Est-ce que l'on prie
  La Vierge Marie ?

  Oisive jeunesse
  À tout asservie,
  Par délicatesse.
  J'ai perdu ma vie.
  Ah ! Que le temps vienne
  Où les coeurs s'éprennent !


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