敵 L'Ennemi (ボードレール:悪の華)

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ボードレールの詩集「悪の華」 Les Fleurs du Mal から「敵」 L'Ennemi (壺齋散人訳)


  我が青春は陰惨なる嵐に似たり
  時に一筋の光明なきにあらずも
  すさまじき雷雨吹き荒れ
  ひとつの果実とて実を結ぶことなし

  いまや実りの季節というに
  鋤と鍬とで 洪水に浸った土地を
  あらたに耕しなおさねばならぬ
  墓穴のようなこの土地を

  我が夢に見る新しき花々が
  砂浜の如く不毛なこの地に
  実を結ぶことなどあるだろうか

  苦しや! 時が命を食いつぶす
  我らの心臓をかじる隠れた敵が
  血を嘗め尽くして肥え太るのだ

1855年の18篇のなかのひとつ、初稿には1852年の日付が記されている。

この詩の中で「敵」と目されているのは時間である。時間が自分の命を食いつぶす。時間が自分を置き去りにして、遠く遠く過ぎ去る。それなのに自分は、人生をやりそこなって、ひとかどの収穫をもたらすためには、もう一度始めからやり直さねばならぬ。

詩から読み取れるのは、うまくゆかぬ自分の人生に対する焦燥なのか、あるいは悔恨の気分なのか。


L'Ennemi -Charles Baudelaire

  Ma jeunesse ne fut qu'un ténébreux orage,
  Traversé çà et là par de brillants soleils;
  Le tonnerre et la pluie ont fait un tel ravage,
  Qu'il reste en mon jardin bien peu de fruits vermeils.

  Voilà que j'ai touché l'automne des idées,
  Et qu'il faut employer la pelle et les râteaux
  Pour rassembler à neuf les terres inondées,
  Où l'eau creuse des trous grands comme des tombeaux.

  Et qui sait si les fleurs nouvelles que je rêve
  Trouveront dans ce sol lavé comme une grève
  Le mystique aliment qui ferait leur vigueur?

  — Ô douleur! ô douleur! Le Temps mange la vie,
  Et l'obscur Ennemi qui nous ronge le coeur
  Du sang que nous perdons croît et se fortifie!


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