笑えない笑い話を紹介しよう。牛や羊など家畜の屁が、一部の国では深刻な環境問題となり、そのあおりでカンガルーが受難しそうになっているという話だ。
牛や羊などの腸が多くのメタンガスを発生させていることについては、以前から良く知られていた。遊牧民が家畜の糞を乾かして燃料に用いているのは、それらに含まれるメタンの濃度が高いためである。
このようにメタンガスは高い濃度で抽出できれば燃料にもなるが、漫然と大気中に放出されれば、地球温暖化の要因になる。なにしろ同じ量で比較すると、二酸化炭素の21倍もの温暖化効果があるというのである。こんなことから、一時は牛のあくびや屁が問題となり、牛を大量に生産・消費しているハンバーガー業者が環境汚染の加害者としてやり玉に上がったほどだ。
普通の人は、たかが家畜の屁と思われるかもしれない。しかしオーストラリアのように、人間より家畜の数が多い国では、温暖化ガスの実に14パーセントが家畜の屁から放出されるという。ニュージーランドにいたっては、その割合は50パーセントにも達するそうだ。
そこでオーストラリアで俄然脚光を浴びたのがカンガルーたちだ。カンガルーの腸には特殊なバクテリアが生息していて、メタンガスを生産することがない。もしそのバクテリアを牛や羊に移植できたら、彼らもメタンガスを放出することがなくなろうというわけだ。しかもこのバクテリアは、エネルギー代謝を効率化させる作用も持っているようで、同じ量のエネルギーをまかなうために、他の動物より10パーセントから15パーセント少ない量の飼料で間に合うという。
このバクテリアの実用化には当分時間がかかりそうだが、もしそれが実現したら、オーストラリアの牧畜業には大きな福音となるに違いない。牛の屁の理屈を笑い飛ばしている人でも、それが飼料の節約となる話に関しては興味シンシンのようだ。
一方では、そんな気の長い話を待たず、いっそ牛の代わりにカンガルーを食うようにしたらどうかという議論も巻き起こっている。カンガルーの肉はロー・ファットで、蛋白質も抱負だ。牛肉に比べればダイエット食として優れている。
カンガルーはオーストラリア人にとってはシンボル動物なので、その肉を食うには心理的な抵抗が強いかもしれない。しかし現在でもオーストラリア人の20パーセントがカンガルーの肉を食っている。これを一気に拡大すれば、国としての地球温暖化対策の切り札になるだろうというのだ。
こうした議論は当事者のカンガルーにとっては迷惑な話だろう。なにしろ臭い屁を出さないという理由で、自分たちの肉が狙われかねないからだ。
関連リンク: 日々雑感
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