牡猫 Le Chat:ボードレール

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ボードレール詩集「悪の華」 Les Fleurs du Mal から「牡猫」 Le Chat を読む。(壺齋散人訳)


牡猫

  我が脳髄の中を悠然と
  したり顔に歩む一匹の牡猫
  やさしくも力強く魅力的だが
  かすかな泣き声は聞き取れぬほど

  音色は穏やかで控えめでも
  ごろごろと咽喉を鳴らすときは
  深くまた豊かに響く
  謎のように秘密のように

  その声は真珠の玉のように
  わが心の奥底に沈み
  限りなき韻律の調べとなって
  媚薬のような喜びをもたらす

  いかに過酷な苦しみをも和らげ
  人を陶酔の境に誘う
  一片の言葉も用いずして
  長大な叙事詩を語るのだ

  いかなる弓をもってしても
  かくも我が心の琴線にふれ
  荘厳な調べのうちに
  切々と歌わしむることはできぬ

  神秘の猫よ
  気高くも不思議な生き物よ
  汝の声は天使の如く
  調和のうちに響き渡る

この詩は1854年に書かれ「悪の華」初版に収められた。先の「猫」がおそらくジャンヌ・デュヴァルのイメージを重ね合わせていたと思われるのに対して、この猫はマリー・ドーブランの家にいた猫を歌ったものだと考えられる。

ボードレールは1852年頃からマリー・ドーブランの家に出入りするようになるが、その家には猫が飼われていたらしいのである。ボードレールはその猫に、マリーの面影を重ね合わせて、この詩を書いたものらしい。

マリー・ドーブランは女優で、1848年にサン・マルタン座で上演された「黄金の髪の乙女」と舞台で主人公の乙女を演じた。ボードレールはそれを見て熱を上げたらしい。


Le Chat - Charles Baudelaire

  Dans ma cervelle se promène,
  Ainsi qu'en son appartement,
  Un beau chat, fort, doux et charmant.
  Quand il miaule, on l'entend à peine,

  Tant son timbre est tendre et discret;
  Mais que sa voix s'apaise ou gronde,
  Elle est toujours riche et profonde.
  C'est là son charme et son secret.

  Cette voix, qui perle et qui filtre
  Dans mon fonds le plus ténébreux,
  Me remplit comme un vers nombreux
  Et me réjouit comme un philtre.

  Elle endort les plus cruels maux
  Et contient toutes les extases;
  Pour dire les plus longues phrases,
  Elle n'a pas besoin de mots.

  Non, il n'est pas d'archet qui morde
  Sur mon coeur, parfait instrument,
  Et fasse plus royalement
  Chanter sa plus vibrante corde,

  Que ta voix, chat mystérieux,
  Chat séraphique, chat étrange,
  En qui tout est, comme en un ange,
  Aussi subtil qu'harmonieux!


関連リンク: 詩人の魂ボードレール >>悪の華

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