空しい願い Placet futile :マラルメ

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ステファヌ・マラルメの詩「空しい祈り」 Placet futile を読む。(壺齋散人訳)

  王女さま! へベが担いだ壺から水が流れ出し
  それがあなたの唇を潤すさまが妬ましくて
  わたしはわたしで火を使う でも司祭のようにではなく
  またセーブルの皿にあなたの裸体を描くこともしない

  わたしはあなたの飼いならされたペットではなく
  ボンボンでも 口紅でも おもちゃでもないから
  わたしはあなたの視線がわたしに注がれるのを感じ
  名工が編み上げたというあなたのブロンドの髪に見入る

  名付けてください ラズベリーのようなあなたの唇の笑い声が
  おとなしい羊たちの鳴き声と溶け合い
  わたしの願いをもてあそぶ うっとりとした音をたてて

  名付けてください 愛の天使が扇の翼に
  フルートを手に羊たちを眠らせるわたしの姿を描くように
  王女さま わたしをあなたの笑い声の牧童と名付けてください

「空しい祈り」と題したこの詩を、マラルメは1862年に書いたが、1887年の詩集に収めるに当たって、大幅に書き換えた。両者を比べると、半数の詩句が変えられている。

ヘベはギリシャ神話に出てくる若さの女神である。神々の宴会に給仕係として仕え、壺を持ってネクタルをついで回った。美術作品では、壺を肩に担いだ姿で描かれることが多い。アングルの有名な絵「泉」も、ヘベをイメージしているとされる。

この詩はそのヘベをイメージしながら、女性の美しさを幻想的に表現したものだ。書かれた時期からして、その女性はマリー・ジェラールだと思われる。


Placet futile - Stéphane Mallarmé

  Princesse ! à jalouser le destin d’une Hébé
  Qui poind sur cette tasse au baiser de vos lèvres,
  J’use mes feux mais n’ai rang discret que d’abbé
  Et ne figurerai même nu sur le Sèvres.

  Comme je ne suis pas ton bichon embarbé,
  Ni la pastille ni du rouge, ni jeux mièvres
  Et que sur moi je sais ton regard clos tombé,
  Blonde dont les coiffeurs divins sont des orfèvres !

  Nommez-nous... toi de qui tant de ris framboisés
  Se joignent en troupeau d’agneaux apprivoisés
  Chez tous broutant les vœux et bêlant aux délires,

  Nommez-nous... pour qu’Amour ailé d’un éventail
  M’y peigne flûte aux doigts endormant ce bercail,
  Princesse, nommez-nous berger de vos sourires.


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