オーガスタに捧げる Stanzas To Augusta :バイロン

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バイロンの詩「オーガスタに捧げる」STANZAS TO AUGUSTA を読む。(壺齋散人訳)

  わたしの幸運の日が過ぎ去り
  わたしの運命の星が傾いても
  あなたは優しい心をもって
  わたしの過ちを見逃してくれた
  あなたはわたしの悲しみをみて
  それを自分のものとして受け取ってくれた
  わたしの魂が思い描く愛とは
  あなたなしではありえなかった

  自然がわたしの周りで微笑んだとき
  それはわたしへの最後の微笑みに受け取れた
  わたしがそれを偽りだと思わなかったのは
  それがあなたを思い起こさせたからだ
  吹き荒れる風が海と戦うように
  わたしの心は愛する人の面影を追う
  逆巻く波がわたしのこころを揺さぶる
  まるであなたを連れ去ってしまうかのように

  わたしの希望の最後の巌が砕かれ
  破片が波間に沈んでしまおうとも
  わたしの心が苦痛にさいなまれようとも
  わたしは苦痛の奴隷となることはない
  あまたの苦しみがわたしを追い詰め
  わたしを打ちのめしても わたしは平気だ
  わたしを責めさいなんでも わたしは負けない
  心を占めるのはあなたのこと 苦痛ではない

  人間でありながら わたしを欺かなかったあなた
  女でありながら わたしを見捨てなかったあなた
  愛されながら わたしを苦しませることなく
  誹謗されても ゆるぐことなく
  強いられても 私のことを否認することなく
  別れていても 逃げようとはせず
  警戒はしても 私の名誉を傷つけはせず
  口はつぐんでも 世をいつわる意図はなかった

  しかしもう世を責めることも謗ることもやめよう
  多数が一人に襲い掛かるのはよくあることだ
  自分から世と折り合いをつけられぬなら
  もっと早く世を去るべきだった
  だがその過ちがわたしに多くの犠牲を強い
  それが予想を超えるものだったとしても
  わたしの失ったものがどれほど大きかったとしても
  あなたをわたしから奪うことだけはできなかったのだ

  消え去った過去の残骸から
  少なくともこれだけは思い起こすのだ
  わたしの愛した人は
  何にもましてかけがいのないもの
  砂漠の中に吹き上げる噴水
  荒野の中に影を添える樹木
  孤独の中で歌う小鳥
  それらが私の心の中のあなたに呼びかけるのだ

オーガスタはバイロンにとっての異母姉にあたる女性である。バイロンはこの人とは子どもの頃にあったきりで、長らく会うこともなかったが、ロンドンで生活するうちに、軍人の妻となっていたオーガスタと出会い、互いに行き来するようになった。

当時のバイロンは多くの女性とのアドヴェンチャーを重ねていた。だがバイロンはそれらの女性に心から打ち解けることが出来なかった。バイロンには同性愛の傾向もあって、女性と清浄な愛をはぐくみ会うことが苦手だったからかもしれない。

しかし、バイロンはオーガスタには心のくつろぎを感ずることが出来たようだ。そんなところから二人は次第に親密な関係になり、そのことで世間の非難も受けるようになった。オーガスタはやがて子を産むが、それはバイロンが生ましたのだろうといううわさも立った。

こんなことでバイロンも、オーガスタも大いに傷ついた。この詩はそんな二人の境遇に触れて歌ったものだ。バイロンにはこの詩のほか、オーガスタに捧げた詩が二つある。

この件がきっかけになって、バイロンはイギリスに愛想がついたようだ。イギリスを捨ててヨーロッパに渡り、二度と戻ることはなかったのである。


STANZAS TO AUGUSTA By Lord Byron

I

  Though the day of my Destiny's over,
  And the star of my Fate hath declined,
  Thy soft heart refused to discover
  The faults which so many could find;
  Though thy Soul with my grief was acquainted,
  It shrunk not to share it with me,
  And the Love which my Spirit hath painted
  It never hath found but in Thee.

II

  Then when Nature around me is smiling,
  The last smile which answers to mine,
  I do not believe it beguiling,
  Because it reminds me of thine;
  And when winds are at war with the ocean,
  As the breasts I believed in with me,
  If their billows excite an emotion,
  It is that they bear me from Thee.

III

  Though the rock of my last hope is shivered,
  And its fragments are sunk in the wave,
  Though I feel that my soul is delivered
  To Pain --- it shall not be its slave,
  There is many a pang to pursue me;
  They may crush, but they shall not contemn ---
  They may torture, but shall not subdue me ---
  'Tis of Thee that I think --- not of them.

IV

  Though human, thou didst not deceive me,
  Though woman, thou didst not forsake,
  Thou loved, thou forborest to grieve me,
  Though slandered, thou never coulst shake, ---
  Though trusted, thou didst not disclaim me,
  Though parted, it was not to fly,
  Though watchful, 'twas not to defame me,
  Nor, mute, that the world might belie.

V

  Yet I blame not the World, nor despise it,
  Nor the war of the many with one;
  If my Soul was not fitted to prize it,
  'Twas folly not sooner to shun:
  And if dearly that error hath cost me,
  And more than I once could foresee,
  I have found that, whatever it lost me,
  It could not deprive me of Thee.

VI

  From the wreck of the past, which hath perished,
  That much I at least may recall,
  It hath taught me that what I most cherished
  Deserved to be dearest of all:
  In the Desert a fountain is springing,
  In the wide waste thee still is a tree,
  And a bird in the solitude singing,
  Which speaks to my spirit of Thee,


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