今夜わたしが笑ったわけ Why did I laugh tonight? :キーツ

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ジョン・キーツの詩「今夜わたしが笑ったわけ」 Why did I laugh tonight? を読む。(壺齋散人訳)

  今夜わたしが笑ったわけを 誰もいえる者はない
  いかなる神も 冷静な応答をなす悪魔さえも
  天上からも地獄からも 答えようとはしない
  それでわたしは自分自身の心に向かって問いかけるのだ

  わたしの心よ わたしたちは二人ぼっちでうら悲しい
  わたしが笑ったわけをいっておくれ おおこの世の苦しみよ!
  闇よ!闇よ!永遠にわたしはこの問いを
  天上や地獄 自分の心につぶやき続けねばならないのか?

  わたしは何故笑ったのか?生きていることは仮のことなのだと
  わたしの空想が果てしもなく広がっていったからだ
  でもこの真夜中の一瞬にわたしは生きることをやめ
  この世を飾る旗のすべてがチリヂリになるのを見るかもしれない
  詩も名誉も美も まことに烈しく迫る
  だが死はもっと烈しい 死は生きたことの証だからだ

キーツは眼前にちらつき始めた死の影を意識するようになってからは、死をテーマにした詩をよく書くようになった。それはまだ完全とはいえない自分の営みに対する焦りであり、不幸な愛に対する押しつぶされた感情であり、また生きることへの愛惜の念であった。

彼は夜中にひとりぼっちで詩を書いている頃合などに、自分はこの瞬間に死んでしまうのではないかと、恐怖に駆られることもあっただろう。そしてそんな理不尽な恐怖が、顔の筋肉を引きつらせ、それが笑いとして爆発したこともあったろう。

この詩を読むと、そんなキーツの烈しい感情が、ひしひしと伝わってくる。


Why did I laugh tonight?

  Why did I laugh tonight? No voice will tell
  No God, no demon of severe response
  Deigns to reply from heaven or from hell
  Then to my human heart I turn at once:

  Heart, thou and I are here, sad and alone,
  Say, why did I laugh? O mortal pain!
  O darkness! darkness! Forever must I moan
  To question heaven and hell and heart in vain?

  Why did I laugh? I know this being's lease
  My fancy to it's utmost blisses spreads
  Yet would I on this very midnight cease
  And all the world's gaudy ensigns see in shreds
  Verse, fame and beauty are intense indeed
  But death intenser, death is life's high meed.


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