ブッシュ政権、金融機関の不良債権処理に全面介入

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アメリカが陥っている先の見えない金融危機に対して、ブッシュ政権がついに全面介入する方針を固めた。議会側との交渉において説明している内容によれば、新たに7000億ドルを金融機関から調達し、それを原資に使って、金融機関の抱えている不良債権を買い取ろうというものだ。

かなり踏み込んだベイルアウト・プランである。米政府は先日、住宅金融会社ファニーとフレディに対して2000億ドルの救済プランを決定しているから、合せると9000億ドルにのぼる。

この計画に対して、今のところ議会も表立った拒絶反応を見せていないらしい。一刻の猶予を許さぬ深刻な事態に直面して、他に有効な手立てが見つからないからだ。

この数字がいかに並外れたものか、アメリカの財政赤字の中で検証してみると、その異常さがよくわかる。アメリカの赤字は2007会計年度に1600億ドル余りを記録した。これが今日のドル安の有力な原因になっていることは誰もが知っている。今回の措置によって赤字はさらに膨らみ、別の要因がなければ、2008年度には5000億ドルに上る赤字は避けられないとされる。それでも控えめに見積もった数字だとする見方もある。

アメリカ政府は、そもそも今回の金融危機については、余り深刻にとらえていなかったフシがある。それが政策のちぐはぐさにつながり、リーマン・ブラザースとアメリカン・インターナショナル・グループへの対応に大きな差をもたらした。一方ではファニーとフレディの救済に破格の措置をとったりしている。

だが今回の決定によって、アメリカ政府はやっと、サブプライム・ローン問題に発する今回の金融危機に、正面から立ち向かおうとする姿勢を示したことになる。

財務当局の議会側への説明資料によれば、必要な原資は、国内外を問わず民間の金融機関を相手に国債を発行することでまかなう。これをもとに、不良債権を対象にしたオークションを開催し、そこで証券に値をつけて政府が買い取る。入札方式を活用し、一番安い値をつけたものが、当該証券の値となるからくりだ。

この措置によって、金融機関は不良債権を抜本的に処分できる。一方巨額の不良債権を肩代わりする形の政府は、いずれ市場が回復したタイミングをねらって、抱えていた証券を売り出す。それによって、ベイルアウトに費やした資金の相当な部分を回収しようとする計画だ。

この計画にはいくつもの落とし穴がある。まず7000億ドルの金が、不良債権処理に十分対応できるかということがある。一説によれば、アメリカの金融機関が抱える不良債権は、10兆ドルを超えるともいわれる。

次に政府がいうところの回収の見込みが甘すぎるのではないかという点である。日本の場合でいえば、政府は金融機関に公的資金を直接注入する措置をとった。それは後に金利をつけて返済されている。ところが今回のアメリカの措置は、不良債権の買収措置であり、そのリスクは政府自身が負うことになっている。

だがアメリカには、20年ほど前に同様の事態に直面した経験がある。S&L破綻問題への対応だ。その際にもアメリカ政府は、国債の発行で調達した資金をもとに、不良債権を買い取り、後に市場が回復した時点でその債権を売却した。それによる回収率は三分の二であった。

日本人の感覚からすれば、税金を民間企業のために使ったとの批判が出るかもしれない。しかしアメリカ人たちは、全額は回収できなかったけれども、当面の危機を乗り切ることができた、損失はそのための費用であったと評価している。

今回の措置がうまく機能するかどうか、これはアメリカ資本主義の未来に向けての、壮大な実験になるだろう。


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    このページは、が2008年9月21日 20:28に書いたブログ記事です。

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