アメリカの金融危機:迷走する救済プラン

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深まる一方の金融危機に対してブッシュ政権が全面的な介入方針を固め、7000億ドルにのぼる不良債権処理資金の投入を決めたまではよかったが、思いもかけず議会側の反発が強く、計画は宙に浮いたまま、なかなか前へ進まない。そうしている間に、S&L最大手のワシントン・ミューチュアルが破綻し、ついで巨大銀行の一角を担うワコビアが深刻な経営危機に陥る有様だ。

金融危機はいまや国境を越えて、ヨーロッパ諸国にも拡大しそうな勢いだ。このままでは、全世界が金融恐慌に陥る可能性さえ否定できない。

議会側も始めから救済プランを拒絶していたわけではない。専門委員会と政府側との間で交渉を重ねた結果、条件付で認める姿勢をいったんは示した。アメリカ政治の従来の慣習によれば、ここで合意ができればほぼ覆ることはなかったはずだ。それがいざ本会議での議決の場で、あっさりとひっくり返った。

関係者は一様に驚いている。しかも反対に回った議員の大多数が、野党の民主党ではなく、与党の共和党だったというので、その驚きは二重のものだ。

今年は大統領選挙と同時に、多くの議員も選挙を控えている。そこで世界経済の安定という巨視的なテーマよりも、自分の身を守るという当面の利益を優先したのだろうというのが、事情通の見方だ。それほどこの問題は有権者の間で不人気なのだ。

現職のブッシュはすでに任期満了を前にレームダックに近い状態になっている。大方の有権者の目にはもはやブッシュの姿はなく、マケインとオバマのどちらが大統領に相応しいかということに、関心が注がれている。だから身内の共和党議員たちもブッシュと心中するのはまっぴらだと思ったのかもしれない。

それにしても現在の事態が時間との戦いだということは、誰にでもわかっているはずだ。それなのになぜ有効な手を早急に打てないのか。

どうも政府側の、議会、ひいては国民に対する説明が十分でないようなのだ。何しろ想像を絶する巨額の金を破綻したビジネスのために使おうというのだ。その金は回りまわって納税者の負担に回ってくる。


多くの国民にしてみれば、金融システムの危機はなんとなくわからぬでもないが、十分な理解もないところに危機感ばかり煽り立てられ、あまつさえ自分たちの財布まであてにされるのではたまったものではない。それになぜ無能な経営者のツケを自分たちが支払わなければならないのか。

そもそも今回の事態は、巨額の報酬を得ながら、危ういマネーゲームにうつつを抜かし、健全な経営を怠ってきた連中の責任ではないか。今回の救済劇を仕組んだポールソン財務長官にしてからが、そういった胡散臭い連中の仲間ではないか。その連中の責任をあいまいにしたまま、拙速に救済の手を差し伸べるのは道理に合ったことではない。

多くのアメリカ国民はこう思っている。それに対して政府側は、先を急ぐあまりに、救済策の中身を懇切丁寧に説明しきっていない。それが今回の迷走につながっている。


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