世界同時食糧危機:日本の食は大丈夫か

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世界のあちこちで食糧危機が深刻に受け止められるようになってきた。アフリカを始めとした発展途上国での食料不足は数年前から大きな問題であったのだが、それがここ1年ほどの間に、先進国を含めた全世界的な現象にまで発展してきたのである。

この事態を「世界同時食糧危機」というショッキングな言葉で、NHKの報道番組が解説していた。それを見た筆者は、食料の自給率に無関心であり続けてきた日本が、果たしてこの先無事にやって行けるのかどうか、いささか考えさせられるところがあった。

現在の世界的な食料不足をもたらした身近な要因として、NHKは三つのものをあげていた。中国やインドなど世界の食糧市場に躍り出てきた新興国の爆発的な消費拡大、食料の最大輸出国であったアメリカで、バイオ燃料ブームが起きた結果、本来食料に回されるはずの穀物が燃料に変えられていること、世界の投機マネーが食料価格を操作している結果、食料の需給バランスをゆがめていること、この3点である。

いずれも食糧需給にとって深刻な問題といえる。だが単純に考えれば、食糧危機のもっとも基本的な原因は、拡大する食料需用に生産が追いつかないことだ。ここ二三年のスパンでみても、食料需用は56パーセント増大したのに対し、生産は8パーセントしか伸びなかった。これでは需給が逼迫するのも無理はない。この調子でいけば、数年後には文字どおりの世界同時食糧危機が、我々一人一人に深刻な打撃を与えかねない。

先進国の間ではすでに、将来の食料需要に対して先行投資する動きが表面化している。世界中の農業適地を買収し、そこで大規模な穀物生産を展開しようとする動きだ。その最大の舞台として、番組はウクライナを紹介していた。

ウクライナは黒土(チェルノージェム)地帯として、世界でももっとも穀物生産に適した土地だ。ところがソビエト体制が崩壊して以来、ソフホーズやコルホーズ単位で行われていた農業生産が崩壊し、耕地は荒れ放題になっていた。そこに最近イギリスなどに本拠を置くブローカーが進出し、農地を片っ端から買いあさるようになった。人力と機械をつぎ込んで穀物を大量生産し、それを高く売りつけることで有利なビジネスを追求しようというのである。

こうした動きに、いまのところ日本はうまく乗り切れていない。番組では原料である大豆の確保に汲々としている味噌業者を紹介していたが、その業者は南米や中国から何とかして確保しようとして必死の努力をするにかかわらず、なかなか確保できない。思い切った発想で、供給先を全世界に求めるまではいってないからだ。そうしている間にほかの国に先を越され、ウクライナのような穀物調達の最前線から脱落しつつある。

先進国の中でも日本はもっとも穀物輸入割合の多い国であるから、この趨勢が続けば受ける影響ももっとも大きくなると思われる。まさに「日本の食は大丈夫か」と心配にもなる。

こうした状況を前に、番組は国内の農業生産のあり方について有益な提言をしていた。休耕地の利用拡大である。

現在日本には耕作可能な水田が270万ヘクタールあるが、そのうち100万ヘクタールは減反政策によって休耕田になっている。もしこれを穀物生産に振り向ければ、穀物の自給率は飛躍的に高まるはずだ。

これまでは国際価格水準に比較して日本の穀物価格がかなり割高だったため、国内での生産にブレーキがかけられてきた。しかし世界的な穀物価格の上昇によって、国産の穀物でも価格競争に参加できる条件が整ってきた。

たとえば100万ヘクタールの減反地で飼料米を生産したと仮定した場合、現在アメリカから輸入している穀物に相当する部分は国内でまかなえることになる。無論大豆や小麦の代替品としては万能ではないが、穀物需用の大部分を占める家畜の餌はまかなえるし、工夫によっては.麺や粉製品の有力な素材になりうる。

世界同時食糧危機は短期的な現象ではなく、今後長く続くばかりか、ますます深刻化すると考えられる。日本の食糧安保の観点から、この際この危機を逆手にとって、日本の農業を甦らせるための工夫が必要だ。


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    個人での新規参入の壁が非常に高いことや流通価格など、農業は極めて政治的な問題だと感じています。但し結果が目に見えるまでに相当の時間を要する問題なので、なかなか与野党間で活発に討議されるといったような事はなさそうですね。次の総選挙ではもう少し注目を集めて欲しいと思っています。

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