人間を含めて哺乳類の屁が臭い理由は、屁の中に含まれている硫化水素の匂いにある。腐った卵が発するのと同じ気体である。化学的には、硫黄と水素の化合物で、箱根の大涌谷など火山地帯からも放出されている。哺乳類の場合には、直腸にいるバクテリアがこの気体を生成し、肛門を通じて放出しているのだ。
この硫化水素は哺乳類の血管細胞でも生成されていることがわかっている。しかも生体の健康維持の上で重要な役割を果たしているらしいのだ。その役割は主に、血圧をコントロールする点であると推測されている。
硫化水素の生成に深くかかわっているのは、CSEと呼ばれる酵素である。鼠を使って実験したところによると、この酵素と関連する遺伝子を除去された固体は硫化水素を生成できない。そのような固体は、ちょっとしたストレスに対しても血圧が異常に上昇し、通常の固体に比較して血圧が乱高下する。
このことから、硫化水素は血圧をコントロールする上で重要な役割を果たしているのだろうと推測されるに至った。
硫化水素がどのようなメカニズムで血圧をコントロールするのか、その詳細はまだ解明されていない。だが硫化水素が気体性情報伝達物質 Gasotransmitters の一種であり、血圧のコントロールに関連する何らかの情報を伝達しているのでないか、そこまでは推測されるようになった。
もしも硫化水素による血圧コントロール・メカニズムが詳細に解明されれば、心臓血管系疾患の治療に大きな福音となることはまちがいない。血圧をコントロールできることは、ストレスをコントロールできることにもつながるから、精神衛生向上の面でも大きな期待がもてる。
ところで屁の効用については、安岡章太郎が「放屁抄」の中で述べているように、精神衛生上みるべきものがある。人は屁を放つことによって、心の中の鬱憤まで晴らすような気分になれるものだ。
上述したように人間の屁の匂いの成分は大部分が硫化水素である。そうとすれば、硫化水素は放屁のメカニズムを通しても、人間にとって有益な役割を果たしているのだろうか。
もっとも硫化水素には毒性もあり、大量に吸い込むと死んだりしかねないから、有益だからといって、むやみに摂取するものではない。今の時点で言えることは、にんにくなど硫化水素を含む食品を適度に摂取することが、健康にとって有益になりうるということだ。
(参考)The Stink in Farts Controls Blood Pressures By Amelia Tomas
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