アメリカ大統領選 Election 2008:オバマ勝利の意味

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アメリカ大統領選 Election 2008は一年近くにわたる長丁場の戦いの末、民主党のバラク・オバマが勝利した。アメリカの長い歴史の中で、黒人が大統領になるのは初めてのことだ。それだけにアメリカ国民はもとより世界中の人々が時代の大きな変化を感じ取ったに違いない。

今年の大統領選はまず民主党内の指名権争いが注目を集めた。黒人のオバマと女性のヒラリー・クリントンの一騎打ちになったからだ。本番の選挙はもとより民主共和両党の候補者選びにおいても、黒人や女性が表舞台に躍り出ることはこれまでになかったことだ。舞台俳優を演じた人々はすべて白人の男性だったのであり、それも少数の例外を除いては、アングロサクソン系のWASPといわれる人々だった。それが一気に異なった様相を呈したのであるから、俄然世界中の注目を集め、人々に時代の流れの変化を印象付けたわけである。こうした流れに共和党のマケイン陣営も、女性の副大統領候補を立てるまでになった。

アメリカ国民がバラクを大統領に選んだ背景には、アメリカが抱えている問題の根の深さがある。ブッシュ政権下で、アメリカはイラク介入をうまく始末できずに泥沼に陥り、国際的にも著しい威信低下に直面しつつある。経済政策の面では、ブッシュの市場放任主義の結果貧富の差が拡大し、新たな格差社会が生まれつつある。そして今回世界中を巻き込んだアメリカ発の金融危機である。

アメリカ国民はこうした問題の処理をオバマに託したのだといえる。いまや人種や性別にこだわるようなときではない、有能な人物に国の舵取りを託すべきだ、そうした思いが国民の支持をオバマの側に向かわせたのだろう。

オバマ自身も政策綱領の中で、イラクからの撤退、市場に対する適正な介入、そして金持ち優遇ではなく弱い人々にも目を向けた公平な社会の再構築を訴えている。

しかしことはいうほど簡単ではない。金融危機の解消一つをとっても、気の遠くなるような努力がいるだろう。金融危機はいまや実体経済にも深刻な打撃を与え、世界中の経済が縮みつつある。これを解決するには思い切った発想の転換が必要で、しかもかなりの時間を要するとも考えられる。オバマには当面この危機をいかに乗り切るかについて、大きな期待が寄せられるだろう。

しかし金融危機が収まり景気が上向いたからといって、それで問題がなくなるわけではない。その先にはもっと大きな問題が控えている。急速に進行する高齢化とそのパラレルとしての高齢者生活保障の問題、地球温暖化への対応とエネルギー政策のあり方、そして拡大しつつある格差をどう縮めていくのかといった問題群である。

日本ほどではないにしても、アメリカも高齢化が急速に進んでいる。日本の団塊の世代に相当するベビーブーマーといわれる人々がいっせいに引退した後、アメリカは彼らの生活をどのように支えていくのかという問題に直面する。これまでのアメリカなら老後を含めて自分の生活は自分で見るものだという信念が支配的だったが、近年になってメディケアやメディケイドが導入され、税金を使って医療を保障しようとする方向に展開してきた。その負担は現行のシステムを前提にすると、数年後には巨額のものになり、国家財政を破綻させかねない勢いだ。

地球温暖化への対応も、これまでのような姿勢ではすまなくなる。地球上の名誉ある成員として生き続けていく為には、現在の化石燃料に偏ったエネルギー源をいかにほかのものに切り替えていくか、これが重要な課題となってくる。

また国民の間の格差については、今のアメリカはほとんど限界点に達しているのではないか。この傾向を放置して格差が更に広まるようだと、アメリカの国家としての一体性に大きな打撃を与えることに発展しかねない。社会経済の仕組みを抜本的に建て直し、格差を縮めていくような政策が求められる。

外交についても、今は歴史的な転換点にあたっている。中国やインドといった後進国が表舞台に躍り出るようになり、経済的にも政治的にも大きなインパクトをもたらすようになった。ロシアも超大国として復活することを目指している。中東やアフリカでは深刻な紛争が絶えないばかりか、ますます複雑な様相を呈しつつある。こうした事態にアメリカがどう向き合うのか。そのリーダーシップにはこれまで以上のデリカシーが求められる。

こうしたわけで、新しいアメリカ大統領オバマの前には、岩のような大きくて頑固な問題がごろごろと落ちふさがっている。これらをひとつひとつ取り除き、明るい道筋を示せなければ、オバマはアメリカ国民や世界中の期待にこたえられないだろう。


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