パリの憂鬱:ボードレールの散文詩集

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散文詩集「パリの憂鬱」はボードレールの晩年を飾る作品群である。ボードレールは晩年に至って、韻文の形式で詩を書くことに困難を感じたらしく、もっぱら散文の形で詩情を綴るようになるが、それはそれで「悪の華」とは一味違う独特の世界をかもし出すことに成功している。ボードレール自身も、そこに新しい可能性を感じ取り、百篇くらいを書き上げて、散文詩集の形で出版したい意向を持つようになった。しかしその願いは達成されず、彼の死後、残された51篇の作品が「パリの憂鬱」と題して出版された。

「パリの憂鬱」の諸篇のうち、もっとも古いものは1855年に書かれた。「悪の華」初版が出る2年前である。その後ボードレールは断続的に、散文詩を雑誌に発表し、1861年には、出版業者のアルセーヌ・ウーセイに、それらを売り込む書簡を送っている。この書簡は後に、「パリの憂鬱」の序文として挿入された。

その書簡の中でボードレールは、アロイジュス・ベルトランの「夜のバスパール」に大いに触発されたと書いている。そしてそれを20回も読み直して、散文詩の可能性について考えたと告白してもいる。だが所詮模倣に終わっては意味がないので、自分としては独自の世界を表現したい、それはベルトランが描いた昔の生活描写ではなく、現代生活一般の描写であると訴えた。

この言葉を裏書するように、ボードレールが散文詩の中で表現したのは、第二帝政下で急速に近代化するパリの街であり、そこに生きる人々、とりわけ群集であった。ボードレールはまた、近代生活から取り残された貧しい人々や孤独な人々、異邦人といったものに深い関心を寄せた。

既に「悪の華」においても、ボードレールは虐げられた人々を一部の詩の題材としていたが、「パリの憂鬱」にあっては、それがメインテーマになった。

この散文詩集は、近代化しつつあるパリの街の裏側に焦点を当て、散文というより自由な形式を生かして、うらびれた人々の生き様を体系的に取り上げたものである。パリはこのような人々の血の暖かさや、うめき声からできている。それらを抉り出したこの詩集はだから、近代都市パリの一種の解剖図にもなっているといえる。


関連リンク: 詩人の魂ボードレール >>悪の華

  • ボードレール Charles Baudelaire




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