米自動車産業ビック3の経営危機

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アメリカの金融危機が実体経済にまで飛び火し、消費者の購買意欲が劇的な低下を見せる中で、アメリカ経済の象徴であった自動車産業が危機的な状況に陥っている。自動車の売り上げが昨年比30パーセントも減少する事態に見舞われ、ビッグスリーはいづれも深刻な経営危機に陥ったのである。

ビッグスリーはこの危機を乗り切るために、政府による公的支援を要請した。その規模は3兆円に上る。これに対して議会筋は、安易な救済には応じられないとして、厳しい再建計画の提出を求めた。ビッグスリーは操業規模の縮小やそれに伴う従業員数の削減、最高経営者の報酬を1セントに抑えるなどの再建計画案を提出して、何とか支援を取り付けようと必死だ。

果たしてどうなるか、いまのところ議会の態度は決まっていない。当初はビッグスリーの救済に一定の理解を示していた議員たちも、世論の反発を考慮して慎重な姿勢をとっている。オバマ次期大統領も、積極支援の姿勢から慎重な態度に変わったといわれる。

巨大企業とはいえ私的企業の公的救済は、アメリカの歴史上ほとんど前例がない。金融機関については、資本主義経済の枠組みそのものを守るという大義名分があったが、製造業についてはそのような名分はない。もしここでビッグスリーの救済に道を開いたら、この先経営危機に陥った企業の公的救済に歯止めがかからなくなるのでは、という強い懸念がある。

しかし自動車産業は400万人の雇用を創出している基幹産業だ。それが崩壊することは大量の雇用が失われることを意味する。深刻な社会不安へとつながっていくだろう。

それにしても、金融不安から金融危機へ、実体経済へのダメージから基幹産業の崩壊の可能性まで、今回の不況が示している負のスパイラル現象は、改めて資本主義経済のもつ弱点をあぶりだした。それは一言で言えば、資本主義経済というシステムの構成員に許された無制約な自由がシステム自体を突き破ったということだろう。

近年のアメリカ経済を特徴付けていたものは、「儲けたものが勝ち」という風潮だ。これは金融機関にとどまらず、産業のあらゆる分野に見られた。企業の理念は「儲ける」という一点に集約され、儲けるためにはあらゆることが犠牲にされた。

一昔前に議論されていた企業の社会的責任などといった言葉は、空虚なお題目として軽蔑された。経営者は目先の利益を上げてそれを投資家に還元し、自分は巨額の成功報酬を勝ち取る。こういう態度が社会に蔓延し、一人一人が自分勝手な利益を追求する中で、システム全体の利益は個人の利益の背後に置き去られるにいたった。こうした風潮が今回のシステム崩壊をもたらしたのだといえる。

ビッグスリーは再建計画の柱として従業員のリストラを上げているが、そもそも雇用を守るというのが公的支援を求めるための名分だったのではないか。

どうもアメリカの経営者たちは、長い間身にしみついた欲ボケから、いまだ脱却できないでいるようだ。


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