蚤 The Flea:ジョン・ダン

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ジョン・ダンの詩集「唄とソネット」から「蚤」The Flea(壺齋散人訳)

  この蚤を見てごらん こいつにとっては
  君が僕を拒絶したことなど 何の意味もないのだ
  こいつはまず僕の血を吸い ついで君の血を吸った
  こいつの中で僕らの血は混ざり合ったのだ
  わかるだろうこれは 別に罪でもなく
  恥でもなく 貞操が失われたわけでもない
    こいつは求愛もしないうちからお楽しみ
    僕ら二人の血を吸って丸々と太っている
    僕らができないことをまんまとしでかして!

  助けておやりよ 蚤には三つの命があるのだから
  蚤のおかげで僕らは結びついたんじゃないか
  こいつは君でもあるし 僕でもある
  こいつは僕らの新床でかつ 教会だ
  親たちがなんと言おうと 君が嫌がろうと
  こいつの黒い体の中で僕らは結ばれたんだ
    こいつを殺すのは僕を殺すこと
    また君自身を殺すことでもある
    こいつを殺せば三つの罪を犯すのだよ

  ああなんということだ 君はもう
  こいつの血で爪を赤く染めてしまったのか
  この蚤に何の罪があるというのだ
  君の血をちょっぴり吸っただけではないか
  なのに気味は誇らしげに笑っていう
  私もあなたも大したことはなかったのよと
    そうかもね でもそれなら恐れることはない
    君が僕に身を任せても こいつが君から
    奪った命ほど 名誉が損なわれることもないのだから


ジョン・ダンは生前自分で詩集を刊行することはなかった。彼の詩集が始めて編まれたのはその死の2年後、1633年のことである。その年に51篇の詩が脈絡無く並べられた状態で刊行され、ついで1635年には「唄とソネット」と題して55篇の詩が一定の意図のもとに配列されて刊行された。今日ブレイクの標準的なテクストとして用いられているものである。

それぞれの詩の書かれた時期ははっきりしない。おそらくすべて1614年以前、つまり新教に改宗して宗教的な傾向が強くなる以前の、青年期の作品だろうと推測されている。

すべてが恋の歌であり、ブレイクの肉感的な感性が現れている作品である。

蚤と題するこの詩は、1635年版の冒頭におかれた。蚤を介して二人の血が結ばれたことを材料に、本物の肉の結びつきを迫る恋の歌である。相手の女性が誰であるかははっきりしないが、生涯唯一の妻、アン・モアだった可能性は高い。ブレイクがアンと出会ったのは、アンがまだ十六・七の頃であり、アンには厳格な父親がいた。だからブレイクはそう簡単にはアンと結ばれることは出来なかった。そこでこんなトリックを使って、アンを誘ったことは考えられるのである。


The Flea.by John Donne

  MARK but this flea, and mark in this,
  How little that which thou deniest me is ;
  It suck'd me first, and now sucks thee,
  And in this flea our two bloods mingled be.
  Thou know'st that this cannot be said
  A sin, nor shame, nor loss of maidenhead ;
    Yet this enjoys before it woo,
    And pamper'd swells with one blood made of two ;
    And this, alas ! is more than we would do.

  O stay, three lives in one flea spare,
  Where we almost, yea, more than married are.
  This flea is you and I, and this
  Our marriage bed, and marriage temple is.
  Though parents grudge, and you, we're met,
  And cloister'd in these living walls of jet.
    Though use make you apt to kill me,
    Let not to that self-murder added be,
    And sacrilege, three sins in killing three.

  Cruel and sudden, hast thou since
  Purpled thy nail in blood of innocence?
  Wherein could this flea guilty be,
  Except in that drop which it suck'd from thee?
  Yet thou triumph'st, and say'st that thou
  Find'st not thyself nor me the weaker now.
'    Tis true ; then learn how false fears be ;
    Just so much honour, when thou yield'st to me,
    Will waste, as this flea's death took life from thee.


関連リンク: 英詩のリズム

  • 英詩と英文学

  • ウィリアム・ブレイク詩集

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    このページは、が2008年12月15日 18:54に書いたブログ記事です。

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