エピローグ Epilogue:ボードレール「パリの憂鬱」

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ボードレールの散文詩集「パリの憂鬱」から「エピローグ」Epilogue(壺齋散人訳)

  余は心満ちて山に登る
  そこからはゆったりとした街が望める
  病院、娼家、煉獄、地獄そして監獄も

  そこでは常軌を逸した事柄が花ざかり
  おおサタンよ 我が苦悩のパトロンよ
  余は空涙を流すためにそこへ行ったのではない

  スケベ爺が年増女に溺れるように
  余は娼婦の巨体に溺れたかったのだ
  地獄の魅力が余を絶えず若返らせるから

  街はまだ明け方の帳のなかに眠る
  重く、暗く、病んで、あるいは
  夕闇の中を孔雀のように徘徊する

  おぞましき都会よ! 余は汝を愛す
  余はまた娼婦や悪党たちを愛す
  俗人どもには無縁な快楽をくれるものたちを


「パリの憂鬱」所収50篇の散文詩を締めくくるのは、韻文のエピローグである。ボードレールはこの詩の中で、パリという大都会を鳥瞰図的に描いている。そこは病院、娼家、煉獄、地獄そして監獄があるところであり、あらゆる常軌を逸した事柄が花開いている。

ボードレールがこの街にやってきたのは空涙を流すためではなかった。娼婦の巨体に地獄の匂いを感じ取り、若返るためだった。

ボードレールがパリを愛するのは、そこに娼婦や悪党たちがいるからであり、壮大な人間喜劇が見られるからなのだ。

ボードレールが50篇の散文詩のなかでつづってきたことは、すべてこのエピローグに収斂している。


Epilogue

  Le coeur content, je suis monté sur la montagne
  D'où l'on peut contempler la ville en son ampleur,
  Hôpital, lupanar, purgatoire, enfer, bagne,

  Où toute énormité fleurit comme une fleur.
  Tu sais bien, ô Satan, patron de ma détresse,
  Que je n'allais pas là pour répandre un vain pleur;

  Mais comme un vieux paillard d'une vieille maîtresse,
  Je voulais m'enivrer de l'énorme catin
  Dont le charme infernal me rajeunit sans cesse.

  Que tu dormes encor dans les draps du matin,
  Lourde, obscure, enrhumée, ou que tu te pavanes
  Dans les voiles du soir passementés d'or fin,

  Je t'aime, ô capitale infâme ! Courtisanes
  Et bandits, tels souvent vous offrez des plaisirs
  Que ne comprennent pas les vulgaires profanes.


関連リンク: 詩人の魂ボードレール >>悪の華

  • ボードレール Charles Baudelaire




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