悲しいベビーブーム:四川大地震の後遺症

| コメント(0) | トラックバック(0)

中国四川省で巨大地震が発生し、多くの人が死んだのをはじめ、甚大な被害をもたらしたのは昨年の5月のことだ。何しろ87000人が死亡し、そのうちの19000人は子どもだというのだ。それ以来復旧は進められているようだが、全面倒壊して多くの児童・生徒が犠牲になった学校は、まだ瓦礫の山のまま残っており、その下には発見されていない子どもの遺体も埋まったままだという。

ところでこの地震に見舞われた地区に、ベビーブームとでも言うべき現象が生じているという。地震で子どもを失った親たちが、新しい子どもを作ろうとして、一斉に妊娠しているのだ。その様子を読売新聞が伝えていた。

中国では1979年以来一人っ子政策がとられている。普通の夫婦は一人しか子どもを生むことができない。だから生まれてきた子どもは何者にも代えがたい。その大事な子どもが地震のために死んでしまったので、取り残された親、とりわけ年齢の高い親たちは、まだ生める能力がある間に新しい子どもを作ろうと、いっせいに妊娠したわけである。

中国では、農村部においては特に、親は年老いたら子どもの世話になるという考え方がいまだに根強い。今回被害にあった農村部においては、住民の大多数は老後へのしっかりした備えができておらず、大部分は子どもに頼ることを考えている。だからその子どもが死んでしまったら、ただ単に悲しいだけでなく、自分自身の老後への不安も高まる。

比較的若い人はまだ先があるが、30歳代後半の年齢になると、再び子どもを持つチャンスは狭まる。そんな懸念が親たちを駆り立てて一斉に妊娠に走らせたのではないか、記事はそう分析している。

現地の人口政策当局も、こうした農民の不安を汲み取って、新しい子どもを生むことを奨励し、それを後押しするために、無料で健康診断を実施している。また母親が体内に装着した避妊器具をはずす指導もしているそうだ。

だが新しい子どもを生みたくても、まだその気になれない人もいる。学校の倒壊で息子を失ったある親は、自分の息子の遺体がまだ瓦礫の下に埋まっているのに、新しい子どもを生むことなど考えられないと話す。

この学校が倒壊したのは、工事の手抜きが原因だったとされる。実際付近の建物はほとんど倒れていないのだ。そこで親たちはその責任を追及しようとしているが、それに対しては政府筋から露骨な圧力がかけられるという。

だから政府が住民に新しい子どもを生めるように後押ししているのは、災害責任の追及をかわそうとする懐柔策ではないか、こんな見方をする人もいるそうだ。


関連リンク: 世界情勢を読む

  • 中国の一人っ子政策:先鋭化する矛盾

  • チベットの暴動:中国政府が恐れるダライ・ラマの影

  • 台頭する中国:脆弱なスーパーパワー

  • 中国人の姓氏は多様化するか

  • 揚子江イルカ・バイジの絶滅

  • 台北小紀行





  • ≪ 魔女の火あぶり | 世界情勢を読む | アメリカの釣りブーム:気軽で金のかからないスポーツ ≫

    トラックバック(0)

    トラックバックURL: http://blog.hix05.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/1380

    コメントする



    アーカイブ

    Powered by Movable Type 4.24-ja

    本日
    昨日

    この記事について

    このページは、が2009年2月25日 18:59に書いたブログ記事です。

    ひとつ前のブログ記事は「寒椿:花の水彩画」です。

    次のブログ記事は「歌1 Song No1:ウィリアム・ブレイク」です。

    最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。