アメリカはいま、空前の釣りブームだそうだ。詳しい統計はまだ出てないが、スポーツ洋品店や餌の販売店の実感にもとづけば、今年の冬は昨年に比較して数十パーセント増の売り上げを記録しているという。
このブームの背景には、アメリカが陥っている不況が作用しているらしい。ただでさえ人々の財布の紐がきつくなっているところへ、解雇されて職を失った人や、ジョブシェアリングで労働時間が短くなった人があふれ、レクリエーションの中でも気軽で金のかからない釣りが、俄然人気を集めているというわけだ。
何しろ釣りは、暇とわずかの金があればできるスポーツだ。近くの川や湖で釣りをしている分には、一日中やっていても、えさ代は5ドルもあれば十分だ。スキーをやれば、リフト代だけで80ドルはかかる。
また最近はガソリン代が安くなったので、ちょっと遠出して釣りのポイントとされる場所にも出かけやすくなった。こうしたわけで、人々はもてあました時間をつぶす手段として、釣りを選んでいるらしいのである。それに、釣った魚は晩飯のおかずにもなるし、いいことがいっぱいだ。
アメリカ人はもともと釣りが好きな国民性だ。豪快な渓流釣りや冬の湖での氷の上からの釣りは、人々の間で根強い人気を誇ってきた。開拓時代からの伝統なのだろう。
アメリカ人の好きな画家ウィンズロー・ホーマーは、野生動物の絵と並んで、釣りをする人の絵も多く描いた。それは単なるスポーツというより、生活感を感じさせる雰囲気のものである。
またアメリカ文学を代表する作家としてヘミングウェーがあげられるが、そのヘミングウェーも釣りが好きだったことで有名だ。「陽はまた昇る」では渓流でのマス釣りを、「老人と海」ではカリブ海でカジキマグロと格闘する老人を描いた。
どうやら吹き荒れる不況の嵐が、アメリカ人たちを開拓時代のフロンティア精神へと回帰させている側面もあるようだ。
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