森下の大衆酒場「魚三」

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深川森下町の大衆酒場「魚三」は安くてうまいことで定評がある。店は午後四時に開店するが、その前から客が並んでいて、開店即満員といった繁昌ぶりだ。門前仲町にも同じ名の店があって、そこも同様の繁昌ぶりだが、聞くところによると、両者は兄弟店らしい。

筆者は門前仲町の店には何度か入ったことがある。そのたびに事前に斥候を出しておいて、あらかじめ席を確保させておくのである。そうしないと入れない。森下町のほうへは、今度初めて入ったが、大人数の宴会を予約しておいたせいで、並ばなくても入ることができた。宴会というのは、同じ会社の兄弟事業所合同の懇親会であった。

そんなわけで一仕事終わった後、例の熟女たち三人を連れて店に入った。店は都営地下鉄森下駅A7番出口を出て、清澄通りを数十メートル南へ歩いたところにあった。

暖簾をくぐって店の中に入って、まず驚いた。まだ五時だというのに、店の中はびっしり満員なのである。それも巨大なテーブルを囲んで、肩を並べるようにして整然と座り、黙々と飲んでいる。普通の縄のれんで見られるような、大声でののしりあうようなところはない。みな黙々然として、飲みかつ食っている。腹の保養をするのに無駄口はいらぬといった風情だ。

二階の宴会場に上がると、そこには畳の上に30数人分の席が設けられていた。下のように詰めれば、50人くらいは優に入るだろう。宴会のメンバーは筆者ら四人のほかは、兄弟事業所の同じような立場の紳士淑女たちだ。とりあえず、宴席の端のほうに、四人固まって座った。

宴会が始まると、次々と料理が出てきた。幹事によれば一人前三千円のお任せコースということだが、いやあ出てくる出てくる。エシャレットと卵焼きの先付けに始まり、色とりどりの刺身の盛り合わせ、ウニの大盛、サザエのつぼ焼き、煮物、焼き物、揚げ物と、押し寄せるように出てくる。肴を食い飽きた頃には、生のきゅうりと冷やしたトマトが出てきて、腹の具合を整え直す工夫もある。

筆者はウニが大好物なので、宴席が乱れて誰も食おうとするものがいないのを幸い、一人で一船を平らげてしまった。これだけでも三千円の価値があろうというものだ。

我が熟女たちもすっかり満足げだ。日ごろ旺盛な食欲ぶりの彼女たちだから、さまざまな料理に箸を運びながら、舌を動かすことも忘れない。メンバーの中に巨大な太鼓腹の紳士がいるのに目を留めて、「あの腹には子供が二人ばかり入っていそうね」と、M女が言う。「近頃は男でも妊娠することがあると、いつかテレビかなにかで聞いたことがあるわ。」

「それは腹腔妊娠というんだよ、男の腹腔内に人工胎盤を作って、子供を育てる技術さ」と筆者が解説する。T女は不思議がって、「生むときは帝王切開かしら」と心配する。すると「当たり前じゃないの、だって出てくるところがないんだから」とY女が引き取る。

こうした次第で、今宵も愉快に過ごすことができた。こんな店だから、開店前から人が並ぶのも無理はない。同じ金を使うなら、こういうところで使いたいものだ。





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このページは、が2009年5月30日 18:50に書いたブログ記事です。

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