胃潰瘍といえば人間に特有の病気だと思われがちだ。ストレスが原因となることが多いので、きわめて精神的な病気だと考えられていたからだろう。ところが馬もやはり胃潰瘍になる。獣医師が日本の競争馬を検査したところ、半数以上が胃潰瘍を患っているということだ。
競走馬も強いストレスにさらされている。レースは過酷だし、日々の調教もつらい、そのうえトラックの狭い空間に閉じ込められて長距離の移動を強いられる、こんなことから日常的にストレスにさらされている、胃潰瘍になるのは当たり前ということらしい。
強いストレスが胃潰瘍を引き起こすことは、マウスの実験でも知られている。しかし普通の動物は、胃潰瘍を引き起こすような強いストレスに、日常的にさらされることはほとんどない。人間だって胃潰瘍などの心身症が社会問題化したのは、近代以降のことだ。
それが昨今では、馬の間まで胃潰瘍が蔓延するようになったわけだ。馬にとってはとんだ災難というところだろう。
しかし朗報もある。馬によく効く胃潰瘍の薬が、日本でも販売されるようになるというのだ。この薬はアメリカの動物薬メーカーが開発したもので、人間の胃潰瘍薬と同じような成分を含んでいる。実際馬の胃潰瘍には人間向けの薬でも利かないことはないそうだ。だがやはり馬と人間とでは体のつくりが違う。馬としては自分たちのために特別に開発された薬の登場を喜ぶべきだろう。
胃潰瘍に似たものに、十二指腸潰瘍がある。これは胃潰瘍以上に強烈なストレスと関連している。とりわけ失恋のような強い絶望感がかかわっていることが多いので、失恋病などとも言われている。
いまのところ筆者は、人間以外の動物における十二指腸潰瘍の例は、聞いたことがない。馬やネズミでも失恋することはあるのかもしれないが。
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