来る八月八日、渋谷のイメージ・フォーラムで一本のドキュメンタリー映画が公開される。題して「花と兵隊」。終戦後日本に復員せず、そのままタイやビルマ(ミャンマー)に残った兵士、いわゆる未帰還兵六人に対するインタビューをそのまま映画にしたものだ。
彼らが日本に戻らなかった理由はそれぞれだ。部隊から逃走して戻りづらかったもの、捕虜収容所から解放されてそのまま現地にいついてしまったものなど、事情はいろいろだが、みな現地の生活に溶け込んで、そこで結婚し、子供や孫にも恵まれた。
彼らはいまや、九十歳前後になる。年齢からして、戦争体験やその後の苦難についてじかに聞けるチャンスは今をおいてない。監督の松林要樹氏はそんな問題意識に駆られてこの映画を作ったという。
氏の視点は、こうした映画に見られがちな、責任追及や自己批判といったものを前面に押し出してはいない。ただ淡淡と老人たちにインタビューし、それをストレートに紹介している。始めは口の重かった老人たちも、やがて氏の熱意に応えて、自分の過酷な経験を物語る。その内容をどう受け取るかは、観客一人ひとりの感性にゆだねようという姿勢だ。
氏と同じような姿勢で、老人たちから戦争体験を聞きだしている作家が他にもいる。熊谷信一郎氏や神直子氏などだ。
熊谷氏は、中国帰還兵だった老人たちと一緒に中国旅行をしたことがきっかけになって、中国での戦争の様子をリアルに再現しようと思うようになった。そしてこの戦争を、日本人の視点からだけではなく、中国人の視点からも描き出そうとしている。
神直子氏は、フィリピンを訪れた際に、現地の人々が日本にわだかまりを抱いており、それが日本による統治のあり方に根ざしていることを知って、日本人がフィリピンで何をしたか、そのことを知りたくなったという。今ではフィリピン人の目から見た太平洋戦争を描くことで、この戦争を複眼的な視点から再現したいと考えている。
三人とも現在三十歳前後で、戦争体験の再現に取り組み始めたのは二十代の半ばだ。彼らは戦争に従軍した世代の孫の世代に当たる。戦争についてじかに見聞したことはないが、戦争を体験した世代からじかにその様子を聞き、それを客観的に再現できる立場にある。
戦後六十年以上たった今、戦争体験は次第に風化しつつある。そんな中で、こうした人々の地味な努力によって、戦争体験の実態が後世にありのままに伝えられることには、大きな意味がある。
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