「北総の台地状の土地には幾条もの小さな河川が櫛の歯のようにつらなって南北に流れ、その流れの一つ一つが台地を削り狭い谷状の窪地をあちこちに作り出している。これらの窪地は谷津と呼ばれ、低湿地であるところから、古来細々と水田耕作が行われてきた。多くは埋め立てられたが、自然公園として残されている所もあるときき出かけてみた。
「市川大町駅を出ると街道に沿って梨園が並び、やがて窪地に降りる道がある。窪地の北端には湧き水が作ったと思われる池があり、そこから水が流れ出している。谷津の長さは二キロほどもあったろうか。しかし湿地は高い草に覆われ、とても絵になる景色は得られなかった。
「そこで年が明けて春の訪れが迫る頃改めて訪れてみた。この絵はその際描いたものである。冬の間は草も枯れて流れもよく見え、訪れる鳥の姿も身近に見分けられる。ごらんのように三脚を立てて望遠レンズを覗く人々の姿もあった。どんな鳥がいるのだろうか。レンズの先に目をこらすと、どうやらカワセミが木の枝にとまっているらしい。」
上の文章は、2003年2月、この風景をはじめて描いて自分の絵のサイトに乗せた際に、添え書きとして書いたものだ。その後親しくしている人から是非欲しいといわれて、もとの絵は贈呈して手元を離れた。
その絵は自分としても気に入っていたものだった。そこで同じ構図で描きなおしてみたのが、この絵である。
もとの絵はグレイを基調としていた。それはそれでよいと思ったが、描きなおすに際しては思い切って色調を変えてみた。グレイがかもし出す冬枯れの世界が、晩秋の枯葉の雰囲気に変わった。
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