借物の辯:横井也有の鶉衣

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横井也有の俳文集「鶉衣」に収められた諸篇を、今日の読者が読んだとしたら、どんな感慨を抱くだろうか。也有翁には気の毒だが、筆者には甚だ心もとなく思われる。

俳文といわれる也有翁の文業は、俳諧の精神を散文のかたちに現したものだ。同じような精神を追求した先輩に西鶴がある。也有翁の文章は西鶴ほど切れがないが、日本人の心の中に脈々と流れているユーモアの精神を十分に伺わせてくれる。

西鶴にせよ也有翁にせよ、俳諧の精神を以て語る伝統は、日本の文学史の中では主流となることはなかった。今日では西鶴はもとより、也有翁の「鶉衣」をひもとき、その歴史上の意義を正しく理解するものは、皆無といっていいほどなのである。

だが也有翁の文業を歴史の堆積物の中に埋没せしむるのは、なんとも残念だ。翁の文章は必ずしも優れているとはいえぬかもしれないが、日本人の発想の原点とも言うべきものを訪ねるには、多少の手掛かりともなるのではないか。

そんなつもりで、筆者は也有翁の文章を愛してきた。それがどんなものか、読者自身が判断できるよう、ここにその一端を紹介したいと思う。題して「借物の辯」という。

「久方の月だに日の光を借りて照れば、露又月の光を借りて貫き留めぬ玉とも散る也。昔何某の尊の兄の鈎を借り給ひしより、まして人代に及んで、一切の道具を借るに、借す者も互なれど、砥の挽臼のといへる類は借すたびに背低く、鰹ぶしは借りられて痩て戻るこそ哀なれ。金銀ばかりは徳つきて戻れば、元借る事の難きには有らぬを、返す事の難きより、今は借る事だに容易からず。

「昔男ありて、身代も奈良の京春日の里に貸すありて借りにけるより、やごとなき雲の上人も、かりにだにやは君は来ざらむと、露深草の深入したまへば、鬼の様なるものゝふも霜月比よりは地蔵顔して、人に頼むの雁金は尾羽打枯らして春来ても越路にかへらず。仮の宿に心留むなと人をだにいさむる出家達も、借らでは現世の立がたきにや、二季の台所には掛乞の衆生来りて、色衣の長老これが為に拝み給へば、又ある寺には有徳の智識ありて、これは此方から借しつけて、切りの算用滞れば貧なる檀方を阿責したまふ。彼も是もともに仏の御心にはたがふらんとぞ覚ゆる。

「そも顔子は陋巷に有りて、いかきの飯瓢箪酒に貧の楽をあらためずとや。さるを今世の人々借金の山なしてこれを苦にすれば限なし、百迄生きぬ身を持ちて、さのみは心を悲しめんや、一寸前は闇の世ぞと放言に腹打たゝきて、我は貧に安んじたりなど、同じ貧楽の引事に言ふは、遣る瀬無き心の祓ならめど、まことは雲水の間違也。なべて世にある人の、衣服調度をはじめて人なみならねば恥かしとて、其為に金を借りて世上の恥はつくらふらめど、こちらに人の物を借りて返さぬを恥と思はざるは、只傾城の客に向かひて飯くふ口もとを恥かしがれど、うそつく口は恥ざるに同じ。

「かくいへる我も借らぬにてはなし。かす人だにあらば誰とてもかりのうき世に、金銀道具はいふに及ばず、借り親借り養子も勝手次第にて、女房計りは、借り引のならぬ世の掟こそ、有難き例なれ
  刈る人の手に汚れけり金銀花

筆者の愛すべき同時代人たる読者諸兄は、この文章を読んで、果してどんな感慨を抱いたであろうか。


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ここに載せた鶉衣の文の口語訳を
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