ソング Song:エドガー・ポーを読む

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エドガー・ポー Edgar Allan Poe の詩「ソング」Song(壺齋散人訳)

  ぼくは花嫁姿の君をみた
  君の頬は恥じらいで赤く染まる
  君の周りには幸福が溢れ
  前途には愛が輝いてるというのに

  君の瞳に燃える光が
  それが何であるにせよ
  ぼくにはつらい色に見えた
  それが愛の光だったらよかったのに

  頬を赤らめたのは乙女の恥じらい
  やがては消えてなくなるだろう
  けれどそれは燃え立つ炎のように
  青年の心を焼き尽くしたのだ

  なぜなら青年には花嫁の頬の
  恥じらいの色がつらかったから
  花嫁の周りには幸福が溢れ
  前途には愛が輝いてたというのに


エドガー・ポーは18歳のときに処女詩集を出版した。Tamerlane and other Poems と題した小冊子だ。この詩集を出版するためにポーはわざわざ当時の出版文化の中心地ボストンに行った。そして詩集の著者としてボストニアン(ボストン人)とだけ署名した。ボストンはポーの生まれた土地でもあったのだ。

17歳のとき、ポーは養父のアランによって、厄介払いもかねてヴァージニア大学に送り込まれていたが、翌年家に戻ってくると、養父は大学への復帰を許してくれなかった。そこで当面やることのなくなったポーは、ボストンに出かけていって処女詩集を出版することにしたのだった。

実はボストンに行ったのには他に理由があった。養父の家にいることが気まずかったこともそのひとつだが、初恋の人との悲しい出来事がポーの気持ちを動転させてもいたのだ。ポーはその気持ちを静めるためにも、旅に出たいという衝動に駆られたのだろう。

その初恋の人とはエルミーラという名前の少女だった。ふたりはまだ若いながら深く愛し合い、ポーが大学に入るためリッチモンドに去ったあとでも、文通を通じて愛を確かめ合おうと願った。ところがエルミーラの父親はポーを嫌い、ポーからの手紙を娘に取り次ごうとしなかった。一方ポーの養父もその企みに同調し、エルミーラからポーに宛てて出された手紙がポーの眼に触れることのないよう、大学当局に働きかけた。こうして事情を知らないふたりの恋人たちは、互いに相手の心変わりを心配したのだった。

ポーが家に戻ってみると、エルミーラは他の男と結婚式を挙げるところだった。ポーはどんなにか驚いたことだろう。

この詩はそんなポーの驚きを語ったものなのだ。1827年に書かれたが、処女詩集には間に合わず、1829年出版の第二詩集に収められた。(ポーは死ぬ直前この初恋の女性と再会し、再び結ばれあうことを誓ったが、実現することなく死んだ。)


SONG. By Edgar Allan Poe

  I SAW thee on thy bridal day --
   When a burning blush came o'er thee,
  Though happiness around thee lay,
  The world all love before thee:

  And in thine eye a kindling light
   (Whatever it might be)
  Was all on Earth my aching sight
  Of Loveliness could see.

  That blush, perhaps, was maiden shame --
   As such it well may pass --
  Though its glow hath raised a fiercer flame
   In the breast of him, alas!

  Who saw thee on that bridal day,
  When that deep blush would come o'er thee,
  Though happiness around thee lay,
   The world all love before thee.


関連サイト:英詩と英文学エドガー・ポー





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このページは、が2010年4月 3日 19:20に書いたブログ記事です。

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