三粋人経世問答:鳩山首相の辞任を語る

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無覚先生:鳩山首相の辞任が伝えられて波紋を呼んでいるね。「とうとう」という反響と、「おや」という反響と、両方あるようだ。参議院選挙を目前に控えて、時期が時期だけにいろいろな憶測を呼んでいる。お二人はどのように受け取りましたか。

静女史:わたしは、鳩山さんにはそんなに急いでやめなければならない理由はなかったと思うわ。たしかに最近の内閣支持率は急速に低下して、鳩山さんの求心力が落ちてきたことは感じていたけれど、まだまだ挽回の余地はあったような気もしているの。なにしろ長い間の自民党政治を変えるために、国民の圧倒的な支持で誕生した内閣なんですもの、それに、事業仕分けを始めとする既得権益の見直しだとか、子ども手当てや農業の戸別補償制度など、画期的な政策は始まったばかり、その結果を見極めないうちにやめてしまうのでは、なんのために民主党政権が生まれたのか、わけがわからなくなると思うの。

俄然坊居士:いや、鳩山さんにはやはり、やめる理由があったと思うね。なにしろ最近の内閣支持率は10パーセント台という異常な状態だ。あの麻生さんでもそれよりは上だったじゃないか。しかもこの支持率はこのまま放っておくと更に低下して、しまいには限りなくゼロに近づきかねない。これは政権党にとっては、危機なんてなまやさいものではない、下手をすると次の参議院選挙で消し飛んでしまうかもしれない、

無覚先生:俄然坊君は「とうとう」というより、「なるべくしてなった」という受け止め方らしいね。やはり自民党時代と同じような「何々おろし」といわれる権力闘争が民主党にもあったということですか。

静女史:新聞報道などを読むと、鳩山さん自身はまだやる気があったようなのに、小沢さんたちの圧力に屈してやめたという側面もあるようね。

俄然坊居士:たしかにいまのままでは、参議院選挙に勝つ見込みはまったくといってよいほどないから、選挙前に党首の首を挿げ替えて、新しいイメージで望もうとする思惑が働いたのは、事実あったと思うよ。だがそれ以前に、鳩山さんのこれまでの失政振りが国民から拒絶されたということの意味も大きい。

静女史:党首の首を挿げ替えて新しいイメージを売りこうもうだなんて、自民党がやってきたことと全く同じじゃない。自民党は総選挙をしないままに、次々と党首の顔を入れ替えたけれど、民主党も同じことをするつもりでいるのかしら。

無覚先生:まあ今回の場合には参院選を目前に控えているわけだから、新しい党首にもある程度は民意が反映されると思うよ。その選挙で民主党が大敗するような事があれば、それを民の厳しい声と受け止めて、民主党は改めて出直す必要があるだろうね。

俄然坊居士:話を戻しましょう。鳩山さんは辞任の理由を説明するのに、自分の失政とそれに対する責任には全く触れていない。沖縄や徳之島の皆さんにご迷惑をかけたとか、社民党の福島さんには悪いことをしたとか、本筋をはずれたことばかりいっている。でもこんなことは政治にはつき物で、別に総理大臣を辞任しなければならないほどの失政ではない。本当の失政は別のところにある。鳩山さんがそれに言及しないのは、政治家として無責任だといわざるを得ないね。

無覚先生:その鳩山さんの失政とやらを、俄然坊君はどうみていますか。

俄然坊居士:ひとつは外交上の失敗、ひとつは内政における無秩序なばらまき政策の行き詰まりでしょう。特に外交上の失敗のつけは大きい。鳩山さんは国の基本にかかわる安全保障上の問題を、しっかり理解していないのではないか。今回の一連の迷走振りをみると、そんな印象を持たざるをえない。国民の多くもそう受け取り、そこに鳩山さんの危うさを感じたのではないか。

静女史:でも沖縄の基地問題の深刻さを考えると、鳩山さんがしようとしたことに意味がないとはいえないわ。

俄然坊居士:だがやり方がまずかったよ。沖縄の基地の県外或は国外移転をぶち上げたのは勝手だが、成算もないままに走り出したものだから、どこからも拒絶反応を食らって立ち往生した、それを横目で見ていたアメリカ政府が、最後には鳩山さん自体に不信感を持つようになった。これでは責任ある外交とはいえない。とにかく鳩山さんのやりかたはメチャクチャといわれても仕方がないね。

静女史:そういわれるとそうかもしれないけど、でもやはり沖縄の状況の異常さを何らかの形で解消しようという意欲は、方向性としては、間違っていなかったと思うわ。

俄然坊居士:間違っていないのなら、それを実現するためには、もっと慎重でなければいけないよ。とにかく鳩山さんのやり方は行き当たりばったりのイメージが強くて、それで国民の多くは信頼できないと思うようになったんだ。

無覚先生:外交問題に関しては、俄然坊君の鳩山評には厳しいものがあるね。

俄然坊居士:内政だってひどいものですよ。子ども手当てにしろ、所得保障にしろ、ポピュリズムの人気取りではないですか。このままでは日本の国の財政状態は、いよいよのっぴきならない状態に陥ることは明らかだ。先般はギリシャの財政危機がユーロ圏全体へと波及し、更には世界経済にも大きな影響を及ぼしたが、日本も近いうちにギリシャの二の舞になる可能性が高い。こんな状態の中でバラまきを続けていたら、日本は遠からず沈没してしまいますよ。

静女史:でも鳩山さんは一方で、事業仕分けをやったりして、財政の無駄を省く努力もしたわ。こんなことは自民党時代には考えられなかったことよ。第一今の財政赤字の原因を作ったのは自民党政権なのだから、それを忘れて鳩山さんだけに財政危機の責任を負わすのは気の毒よ。

俄然坊居士:それはそうだが、小生が言っているのは、鳩山さんがその赤字を更に拡大させる政策を採り続けて、減らす努力が足りないということなのだよ。

静女史:最近は国民の間でも、高福祉高負担の考え方が浸透してきたので、たとえば消費税を上げるとか、根本的な財政論議が展開されてしかるべきですね。

俄然坊居士:いや簡単に国民に負担を求められても困るよ。今だって日本の国民は多大な負担にあえいでいるんだから。

無覚先生:話は変わるけれど、鳩山さんというひとはよほどユニークな人なんだね。そこのとろこがマスコミにはいいネタになるらしくて、昨夜などはどこのテレビでも、鳩山さんをカリカチュアライズした番組を流していたね。

静女史:鳩山さんを細川さんと比較する人が多いようだけど、たしかに二人とも世間にうといお坊ちゃんといった感じはしますわ。

俄然坊居士:ふたりとも脇が甘いんだよ、だからそこを付け込まれる。細川さんの場合には当時野党だった自民党が執念を燃やして細川さんをスキャンダル漬けにし、その結果細川さんは嫌気をさして政権をほっぽりだした。鳩山さんの場合は身内から脇の甘さを突っ込まれて政権を投げ出さずにはいられなかった。こんなこまかい違いはあるけど、見通しの甘さという点では五十歩百歩でしょうな。

静女史:ふたりともおぼっちゃまなんですね、少しくらい脇が甘いのは仕方ないかもね。細川さんは昔で言えば殿様ですし、鳩山さんは総理大臣の孫で、しかも大金持ちのお母さんから、湯水のようにお小遣いをもらえるんですもの、わたしたちとは世の中の見方が違っても不思議ではないわ。

俄然坊居士:でもその不思議さで日本の国を危うくされるのは困るな。エイリアンは遊びの世界だけにしてほしいよ。政治の世界でもエイリアンでいようとするから、小沢さんにいいように扱われるのさ。

静女史:その小沢さんだけど。鳩山さんと一緒にやめたわね。これはちょっと意外だったわ。でも小沢さんにしたってダーティなイメージが付きまとってるでしょ。この辺がやめどきだったのよね。

無覚先生:たしかにそうともいえる。それはそうとして、議論がちょっと拡散してきたところで、この場はひとまず終わることにして、どうですか、一杯やりませんか。

(上の写真は辞任会見する鳩山首相:Toru Yamanaka/AFP提供)





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このページは、が2010年6月 3日 18:58に書いたブログ記事です。

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