杜甫の五言律詩「旅夜に懷ひを書す」(壺齋散人注)
細草微風岸 細草微風の岸
危檣獨夜舟 危檣獨夜の舟
星垂平野闊 星垂れて平野闊き
月湧大江流 月湧きて大江流る
名豈文章著 名は豈に文章もて著れんや
官因老病休 官は老病に因って休む
飄飄何所似 飄飄として何の似る所ぞ
天地一沙鷗 天地の一沙鷗
細草に微風が吹き渡る岸辺、帆柱をたてて眠る一隻の船、星が一面に垂れた平野はどこまでも広がり、月の光を映しながら大江は流れる
名声は文章であらわれるものではない、だが官位を求めるには年をとりすぎた、飄々としたわが身は何に似ているというのか、天地の間を悠然と飛ぶ一羽の鴎かもしれない
蜀の都成都を去った杜甫の一家を乗せて、船は岷江を下って宜賓で長江へ出、重慶で嘉陵江をあわせて一層川幅を増した長江を、さらに下って忠州に向かった。そんな長い船旅の途中、杜甫はこの有名な五言律詩を作った。
あまりにも有名な詩なので、改めて解説する必要もないだろう。最後の二句が、晩年を迎えて尚放浪の旅にある自分を、万感の思いを込めて歌い上げている。
関連サイト: 杜甫:漢詩の注釈と解説
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