ビザンティウムへの船出 Sailing to Byzantium:イェイツの詩を読む

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ウィリアム・B・イェイツの詩集「塔」から「ビザンティウムへの船出」Sailing to Byzantium(壺齋散人訳)

  ここは老人の住める国ではない
  若者たちは手をつなぎあい 
  命はかなき鳥たちも木の枝で歌を歌う
  滝には鮭が飛びつき 海は鯖であふれ
  魚も獣も鳥類も一夏じゅう
  命の営みを謳歌する
  官能の音楽に心を奪われ
  不老の知恵を省みるものはいない

  ここでは老人は余計物あつかい
  壁に引っ掛けられたコートのようだ
  躍動する魂が大きな声で歌い
  肉体の綻びを嘆くことはない
  ここで人々が教わる歌といえば
  刹那の喜びを歌うものばかり
  それ故わたしはここを去って
  ビザンティウムの聖なる都市へと船出したのだ

  壁に嵌められた黄金のモザイクのような
  神の火につつまれた聖者たちよ
  その火のなかから螺旋を描きながら飛び出し
  わたしに魂の歌を教えてほしい
  わたしの心を焼き尽くしてほしい
  欲望に燃え命に執着するわたしの心を
  それは自分のなんなるかを知らないゆえ
  永遠の芸術品へと鍛えなおしてほしい

  かくして自然を超越したからには
  ふたたび現身の姿には戻るまい
  眠たげな皇帝を目覚めさせておくために
  ギリシャの匠たちが黄金でつくったという
  あの永遠の姿をまとうとしよう
  しかして黄金の枝を握りながら
  ビザンティウムの貴人たちを前に
  過去 現在 未来について歌い続けよう


1928年に出版された詩集「塔」The Tower は、イェイツ後半期を代表する詩集である。イェイツは1923年にノーベル賞を受賞し、詩人として確固とした地位を確立していたが、それに甘んじて創作の手を緩めることはなかった。むしろその詩境はいっそうの発展をとげさえした。

詩集「塔」の大きなテーマは二つある。ひとつは自分自身の老いである。60を過ぎた老詩人が、これまでの自分の生き方を振り返る一方、老いることの意味を考える。そのなかから独特の雰囲気をもつユニークな詩が生み出された。

もうひとつは、モード・ゴンとの不幸な愛について、もう一度考え直すことだった。イェイツは50歳を過ぎてようやくゴンをあきらめ、他の女性と結婚していたが、ゴンとのことは何時までも忘れることができなかった。60歳を過ぎて人生の晩年を迎えるに当たって、そのゴンとの関係を改めて気持ちの中に整理したいという欲求が彼を突き上げたのだと思われる。

「ビザンティウムへの船出」Sailing to Byzantiumは、この詩集の中でも、もっとも有名になった作品。船出とは老いることに対する覚悟の気持ちを表している。


Sailing to Byzantium

  That is no country for old men. The young
  In one another's arms, birds in the trees
  - Those dying generations - at their song,
  The salmon-falls, the mackerel-crowded seas,
  Fish, flesh, or fowl, commend all summer long
  Whatever is begotten, born, and dies.
  Caught in that sensual music all neglect
  Monuments of unageing intellect.

  An aged man is but a paltry thing,
  A tattered coat upon a stick, unless
  Soul clap its hands and sing, and louder sing
  For every tatter in its mortal dress,
  Nor is there singing school but studying
  Monuments of its own magnificence;
  And therefore I have sailed the seas and come
  To the holy city of Byzantium.

  O sages standing in God's holy fire
  As in the gold mosaic of a wall,
  Come from the holy fire, perne in a gyre,
  And be the singing-masters of my soul.
  Consume my heart away; sick with desire
  And fastened to a dying animal
  It knows not what it is; and gather me
  Into the artifice of eternity.

  Once out of nature I shall never take
  My bodily form from any natural thing,
  But such a form as Grecian goldsmiths make
  Of hammered gold and gold enamelling
  To keep a drowsy Emperor awake;
  Or set upon a golden bough to sing
  To lords and ladies of Byzantium
  Of what is past, or passing, or to come.


関連サイト: イェイツ:詩の翻訳と解説





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このページは、が2010年9月19日 18:03に書いたブログ記事です。

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