十月三日(日)晴。七時に起床するに窓の外はいまだ暗し、今のパリは夏時間なれど、夜明は八時近しとのこと。何のためなるかは存ぜず、いづれにしても夜明けが八時頃のことにては、勤労の意欲もそがるるべし。
ホテルの朝食は一階の食堂に用意せられてあり、メニューはパンのほかは若干の飲み物とハムの類ばかりなり、ロンドンのホテルに秘すればましといふべけれど、質素なることは日本の旅館の比にあらざるなり。
枕の下にチップ二ウロを忍ばせ、八時頃ホテルを出づ。最寄りのサン・テミリオン駅前まではわづか二分ほどなり。この辺りはパリの周辺部に当たるべしといへども、最近は再開発施され、近代的な雰囲気の町といふなり。しかも地下鉄一四号線に乗れば、都心まで十分以内にアクセスしうるなり。観光の拠点としては申し分なし。
サン・テミリオン駅より地下鉄に乗り、オランピアード方面に向ふ。地下鉄車内は日曜日にかかはらず乗客の姿多し。フランス人のほかに、他国のヨーロッパ人はもとより黒人やアジア人の姿を多く見かけたり、黒人はチュニジア、アルジェリアなど、アジア人はベトナム、ラオスなど、かつて植民地たりし国の人々なりといふ。
フランス人の女性には、美貌にして姿勢端正なるものと並びて、体躯長大にしてかつ巨大なる尻の持ち主多し、かかる女性と身を接して並び立てば、余は臍から胸のあたりを女の尻に圧迫せらるるを感ずるなり。一方愛嬌づきたる女性もあり、余と顔を見あはすや微笑を返すものもありたり。
ビブリオテック・フランソア・ミッテラン駅にて中距離鉄道RER―C線に乗り換へ、ポントアーズ方面に向ふ。これは二階建ての車両にて、今までに乗りたる地下鉄車両と比較して、乗り心地極めて悪し。まづ車内清掃せられをらず、床にごみが散乱しをるほか、座席も汚れて座る気を起こさせず、横子などは吐気を催すほどなりと酷評する始末なり。
シャンドマルス・トゥール・エフェル駅にて下車し、エッフェル塔に向ふ。シャンドマルスは極めて広大なる公園にして、エッフェル塔をさまざまなる角度より望み得るなり。
エッフェル党は四本の脚を支へとして立ち、高さは二百数十メートルなり。その上よりはパリの市街を隈なく臨むことを得る。東京と異なり、パリは整然たる建築計画貫かれ、美観を損なふ建築物は許されざれば、町全体が今なほ昔のたたずまいを残すなり。
余らは Sud なる脚より、徒歩にて展望台に上り、そこよりパリの街を睥睨す。足下にはシャイヨー宮殿の整然たる幾何学模様とセーヌを行きかふ船の姿見ゆ、また北東の果にはモンマルトルの小高き丘の風景見えたり。
町の風景に満足して後は、展望台のカフェにてエスプレッソを飲みつつ、初めて見るパリの街の印象をこもごも語りあふ。とにかく驚きに堪えたるは、この町が近代化の波と無縁なるが如く、昔のままの姿をそっくり保存しをることなり。
下りは Nord の脚なるエレベータに乗りぬ。
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