ルーブル美術館:パリ紀行その五

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十月四日(月)陰、時に雨。七時半に起床すれば窓外相変はらず暗し。ホテルの食堂は昨日に比すれば人影少なし。九時頃外出して地下鉄駅に至れば、ここは通勤客雑踏して活気を呈したり。

駅前無料の新聞を配るものあり。通勤する者ことごとく新聞紙をひったくりて去る。余もまた一部を受け取りて地下鉄に乗り込みたり。

込み合ひたる地下鉄車内の様子を伺ふに、座席の配置は、扉と扉の合間に対面式のボックス席一式を収め、背もたれの裏側には折りたたみ席をしつらへたり。混雑激しからざるときにのみ客は席に座し、混雑激しき時には、席を畳んで立つなり。

車両内には、日本の車両をべたべたと覆ひたるやうなる広告物は、あまり目にせず。しかも中吊り広告の類はほとんどあらず。極めてさっぱりせり。そのかはり、駅構内の隧道部分には巨大な広告物占拠してあり。旅客はいやがおうにも、この広告物を見ずにはすまざるが如くにあつらはれたり。一種の強制認知の法則を応用したるが如し。

ピラミード駅に下車してルーブルに向ふ。途中若き女性の床に寝そべりたるさまを目にす。どうやら貧血発作を起こせしものの如し。傍に介抱するものを見たれば、そのままに去る。

ルーブルは東西に細長き作りにて、平べったきコの字型をなす。東側の突き当たりの部分をシュリー館といひ、北側の細長き部分をリシュリュー館といひ、南側の部分をドノン館といふ。コの字型の内部にピラミード型のガラスの建物あり、その地下が入館口になりをるなり。

長蛇の列に並びて入館す。まづシュリー館に至りてミロのヴィーナスを見る。この像が日本に初めて来りしは余がいまだ少年時代のことなりき。その折、余もまた上野の美術館に足を運びし一人なりしが、その時の美術館には人間の姿ばかり充満し、肝心のヴィーナス像をまともに眺むるにいとまなかりしことどもなど、改めて思ひ出でられたり。

ついでドノン館を訪ねてルネサンス絵画を見る。ダヴィンチ、ラファエルらイタリアの画家と並んで、アングル、ドラクロアの絵に迫力を感ず。その後リシュリュー館にフランドルの絵画を見る。ここはフェルメールの小品二点のほかレンブラントのコレクションが見ものなり。

この他に、余がとりわけ興味をひかれたるは、古代オリエント地方の彫像なり。なかでも人間の身体に動物の頭を乗せたる所謂半獣神像は、人の想像力を刺激してやまざるを感じたり。

館内には作品の模写をなす者多く見かけたり。この日は年配の女性の複写をなす者何人かありしが、学生とも思はれず、或は売るための複製品を製造したりしならんか。

彫刻作品は、デッサンの対象として最も相応しければ、その周りには大勢の学生集まりて、各々デッサンの作業をなせり。


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素敵だなぁ。

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このページは、が2010年10月15日 19:50に書いたブログ記事です。

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