夕刻マドレーヌに至る。マドレーヌ寺院はパリ屈指の大寺院なり。その傍らにシャネルショップあり。中に入りて品定めをなす。
日本を出づるとき、荊婦に向かって土産に何を欲するか聞いたるところ、シャネルのバッグを所望せらる、大きいのは高いから小さいのでいいのよ、といはれたることを思ひ出し、それらしきものを物色す、手ごろなもの見つからず。しかも品物には値札下げられてをらず。寿司の時価のやうなり。
ついで寺院近くを東西に走るフォブール・サン・トノレ街を歩み、別のシャネルショップに入る。ここには荊婦の注文にかなふ品展示せられてあり。しかるに値札を見れば実に二千七百ウロなり。日本円に換算すれば三十二万円ほどなり。余エスコートしをる店員に向かって、トレ・シェールといひたり。
店員答へて曰く、価の貴卑はシャネルの斟酌するポリシーにあらず。本物を相応しき値段にて売るべきのみと。余はそれ以上拘泥することをやみぬ。
その後フォブール・サン・トノレ通りの東側を歩み、ヴァンドーム広場に至る。方形の広場にて、中心にオベリスクたちたり。ここにもシャネルショップありしが、中をのぞくまでもなし。
ここにて疲労耐え難きまでになりたれば、さるカフェの店外席に腰掛けてビールを注文す。その席はナプキン敷かれてグラスも用意せられてあり、店員いふ、この席は食事用の席なれば、食事せざるものは他の席に移られよと、余かかるルールのあることを始めて知りたり。
この日始めてのことにてはあらざれど、パリのカフェの席は密集して、隣席との間に一分の隙もなし、客は互ひに肩をすりあふやうにして過ごすなり。
リドの観劇は、ピラミード通りなるマイバスの発着所より出発す。マイバスとは東京のはとバスに似たるものにて、JTBの現地法人が運営するところなり。
ここに向ふ途中、オペラ通りの一角にモノプリを見る。スーパーマーケットのごときものなり。都心にスーパーマーケットを見るは面白き組み合せといふべし。横子ここにて下着を追加購入したしといひだす。
店に入るや店員を捕まへ、アンダーウェアはありや Est-ce que vous avez les underwears? と問ふ、店員その意味を解せず、改めてフランス語にてスー・ヴェトマンはありや Y a-t-il les sous-vêtements? と問ふ。店員売り場の一角を指差し、あのあたりにありといひ、神妙なる表情をなしぬ。
かくてこの夜はシャンゼリゼーの一角なるリド劇場に赴きて、壮大なるショーを楽しみぬ。
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