漂泊者 The Wanderer:W.H.オーデン

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W.H.オーデンの詩「漂泊者」The Wanderer(壺齋散人訳)

  運命は暗く どんな海の底よりも深い
  運命に見舞われた人間は
  春のさなかに 花々が咲き乱れ
  なだれが崩れ 岩肌の雪がはがれるとき
  自分の故郷を後にせねばならぬ

  どんな手もあいつを抱きかかえることはできず 
  またどんな女たちの制止もあいつをとめることはできぬ
  あいつは番人たちの間をすり抜け 森を横切り
  異邦人となって 乾くことのない海を渡り
  息詰まる海底の漁礁を通り過ぎていく
  かと思えば 湧き水のほとりに横になって
  ぶつぶつと言葉を吐いたりもする
  岩の上にとまった おしゃべりな小鳥のように

  疲労した夕方 頭を前方に垂れたまま
  夢見るのは故郷のこと
  妻が窓から手を振って 喜び向かえてくれるや
  一枚のシーツに包まって抱き合う夢だ
  だが目覚めながら見るものといえば
  名も知らぬ鳥の群れか
  浮気をする男たちがドア越しにたてる音だ

  あいつを敵の虜にするな
  虎の一撃から救ってやれ
  あいつの家を護ってやれ
  日々が過ぎていく不安な家を
  雷から護ってやれ
  しみのようにじりじり広がる崩壊から護ってやれ
  あいまいな数を確かな数に変え
  喜びをもたらしてやれ
  帰る日が近づくその喜びをもたらしてやれ 


1930年の作品。詩がテーマにしている放浪とは、ヨーロッパの青年の間で古くから通過儀礼として確立されていた風習のことだ。青年は一定の期間にわたるこの放浪の末に、ひとりの男として自立する。

オーデン自身も、オックスフォードを卒業した後、ヨーロッパへと放浪の旅に出ている。


The Wanderer

Doom is dark and deeper than any sea-dingle.
Upon what man it fall
In spring, day-wishing flowers appearing,
Avalanche sliding, white snow from rock-face,
That he should leave his house,

No cloud-soft hand can hold him, restraint by women;
But ever that man goes
Through place-keepers, through forest trees,
A stranger to strangers over undried sea,
Houses for fishes, suffocating water,
Or lonely on fell as chat,
By pot-holed becks
A bird stone-haunting, an unquiet bird.

There head falls forward, fatigued at evening,
And dreams of home,
Waving from window, spread of welcome,
Kissing of wife under single sheet;
But waking sees
Bird-flocks nameless to him, through doorway voices
Of new men making another love.

Save him from hostile capture,
From sudden tiger's leap at corner;
Protect his house,
His anxious house where days are counted
From thunderbolt protect,
From gradual ruin spreading like a stain;
Converting number from vague to certain,
Bring joy, bring day of his returning,
Lucky with day approaching, with leaning dawn.

関連サイト:英詩と英文学






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