NHK「北方領土解決の道はあるのか」を見て

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NHKスペシャル番組「北方領土解決の道はあるのか」を見た。ロシア人カメラマンを雇ったりして、一年間かけて取材してきた北方領土の現状を紹介し、返還の可能性について考えるというものだったが、折からロシアとの間で高まった緊張が、番組制作にも深い影を落としたようで、なんとも歯切れの悪い仕上がりになっているとの印象を持った。

先日の前原外相のロシア訪問は日本にとっては何の成果ももたらさず、かえって領土交渉が恒久的に棚上げされる可能性を生み出したことで、北方領土問題は容易ならざる暗礁に乗り上げた。そんな手詰まり感が番組にも反映し、「北方領土解決の道はあるのか」」という深いため息が番組の節々でこだましていたように思えた。

この番組を見ていた人々は、北方領土返還交渉をめぐって隘路になってきたことがらを改めて認識したのではないか。

ひとつは、日本政府のポリシーに一貫性がなかったのではないかということだ。1956年の日ソ共同宣言を足がかりに、とりあえずは歯舞、色丹の二島返還を優先させようとする考え方と、四島一括返還の大儀を主張する考え方とが対立し、これが日本側の交渉姿勢を一貫性にかけたものにした。

国内にどんな意見の相違があろうとも、外交上の交渉の舞台では、主張は常に一貫していなければ話にならぬ。そこのところで常にぶれている印象を相手に与えるものだから、日本は常にロシア側に付け入る余地を与えてきた。そのような印象を改めて強くした。

二つ目は、相手側の政治情勢のタイミングを、日本は十分に理解せず、その結果外交上の有利な状況を生かすことができなかったということだ。

ソ連が崩壊し、ロシアが政治的にも社会的にも大きな試練を迎えていたエィツィンの時代に、日本にとっては千載一遇のチャンスともいうべき状況が生じた。そのエリツィンは自分でも日本にやってきて、直接領土交渉まで行った。それが結局何の実も結ばずに終わったのは、日本側に相当な準備がないままに、いきなり相手に四島返還を認めさせようとするような、乱暴な態度に出たからではないか、そういう事情が画面から伝わってきた。

日本側にこのチャンスを最大限生かそうとの国家意思があったならば、国論の統一と外交的な準備について、もうすこし入念に準備すべきだったのではないか、そんな痛恨に似た反省が伝わってきた。

いまのロシアはエリツィン時代のロシアとは違う。まがりなりにも経済的な余裕を持つにいたり、北方諸島にも巨額の投資をするようになった。それを踏まえて北方諸島の実効支配の強化から一歩進んで、恒久的な領土化に向けて踏み出したとの感を与える。もはや日本の経済力をあてにしなくても、自力で北方領土を経営する自信と意欲を持つようになったからだろう。

日本はこのままでは、ロシアとの間で永久に平和条約を結ぶことができないかもしれない。


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