大きな魚は小さな魚を食う:ブリューゲルの版画

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「大きな魚は小さな魚を食う」と題したこの絵は、ブリューゲルのボス風の作品第二作で、1556年に下絵が書かれた。コックは翌年それを版画にする際、画面の左下に「創案者・ヒエロニムス・ボス」という銘を入れた。前作よりさらに一歩踏み込んで、ボスの名声にあやかろうとしたのだろう。

この作品のテーマは、当時のフランドル地方でよく知られていたことわざだ。後にブリューゲルは、ことわざをテーマにした大作を描くようになる。

ここで取り上げられたことわざは、「大きな魚は小さな魚を食う」というもので、人間社会の弱肉強食を投影したものだ。

ボスの絵にも、たとえば聖アントニウスのように、小さな魚をくわえた大きな魚が描かれているから、このことわざは、民衆の心に強く訴えるものがあったのだろう。

この絵の中心には、巨大な魚が大きな口をあけて、小さな魚を吐き出している、また鎧兜をまとった人物がナイフで大魚の腹を裂くと、中からやはりたくさんの小魚が踊りだしてくる。これは、驕れるものはいつかは自分が迫害される立場に立つということを、図像学的にアピールしているものだ。

ミハイル・バフチーンの説を持ち出すまでもなく、この時代の民衆文化の中では、秩序と反秩序が、カーニバル的なお祭り騒ぎの中でひっくり返るという意識が強かった。この絵はそうした民衆の意識に訴えかけているのだといえる。






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