福島原発事故と二大原発事故の比較

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今回の福島第一原発事故は、最終的にどの程度の災害レベルに位置づけられるか、まだはっきりしない。しかし規模の大きさと事態の深刻さからして、1979年のアメリカ・スリーマイル島原発事故、1986年のウクライナ・チェルノーブィリ原発事故と並ぶ深刻な原発事故として記憶されることになるだろうとする意見が、専門家たちの間で有力だ。

ここではそうした見方のひとつとして、ジョシー・ガースウェイト(Josie Garthwaite)氏がナショナル・ジオグラフィックのために書いた論文の要旨を紹介したい。

三者の原子炉は、それぞれ構造が異なる。福島第一は1970年代に作られたもので、沸騰水型軽水炉(BWR)というものだ。これに対してスリーマイル島は加圧水型軽水炉(PWR)、チェルノーブィリは黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK)というものだ。

米電力中央研究所(EPRI)の原子力担当副所長ニール・ウィルムシャースト氏によると、軽水炉の場合には、水が2つの役割を果たしているという。炉心で発生した熱を取り出す冷却材、そして核分裂反応で放出される中性子の速度を下げる減速材の働きである。

加圧水型では水に高い圧力をかけ、高温のままで沸騰させることなく運転するのに対して、沸騰水型は比較的低音で運転する。そのため、原子炉の構造が簡単で、部品が少なく済む場合が多い。

アメリカでは、どちらのタイプの軽水炉も広く用いられている。安全性に大差はないということだ。

黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK)は、軽水炉と同様に冷却材として水を使用するが、減速材には黒鉛を使用する。このタイプのものは、現在ではロシアに数台あるのみだという。安全性に問題を抱えている可能性が高いのだろう。

事故の原因については、福島の場合、地震と津波によって、冷却システムを支える電源装置の体系がことごとく破壊されたことが基本的な原因といえる。これに対して、スリーマイルとチェルノーブィリの場合は、人為的なミスが原因だった。

スリーマイルでは、作業員が非常用冷却系統を誤操作により停止してしまったため、深刻な事態に進展した。

チュエルノーブィリでは動作試験の最中に、複数の規則違反があったために、予期しない運転出力の急上昇により蒸気爆発を起こし、原子炉の蓋が破損、その結果、溶融した燃料と蒸気が反応してさらに激しい爆発が起こり、炉心も溶融、建屋もろとも爆発炎上した。この際、減速材の黒鉛が爆発の規模をさらに拡大させるという皮肉な事態が起きていた。

被害の規模でも、チェルノーブィリは突出している。軽水炉の場合には、燃料被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器の3重の壁で放射能漏れを防いでいるが、チェルノーブイリの場合は原子炉格納容器を欠いていたために、放射性物質が直接大気中に放散され、広大な地域を汚染した。

影響を短期的・長期的に分けて見ると、まず最初の爆発で直接に被爆した人の数は、集計不能なほど膨大だったといわれる。そのうち爆発の影響をもっとも強く受けた原発の作業員は600人、このうち134人が急性の放射線障害に陥り、28人が三ヶ月以内に死んだということになっている。そのほか、黒い雨などによって被爆した住民のうち、少なくとも4000人が死亡したといわれている。

このほか、汚染されたミルクや野菜の摂取を通じて内部被爆したケースも深刻だ。少なくとも6000人以上の子供たちが、この内部被爆によって、甲状腺がんになったと推測されている。

原発事故においては、適切な情報開示が決定的に重要だ。情報開示が適切でないと、関係者は無論周囲の住民も命の危険にさらされるからだ。

スリーマイルの場合は、事故の内容が適切に情報開示されることはなかった、そればかりか、当局は「危険は過ぎ去った」と根拠のないことを繰り返して、周辺住民を危険にさらし続けた。

チェルノーブィリの場合、ソ連政府は事故を隠蔽しようとした。西欧諸国がこの事故を知ったのは、スウェーデンで発見された異常な放射能がきっかけだった。そうした隠蔽体質が、原発事故の長期化と、放射能汚染の拡大、そして膨大な数の住民が被爆する事態を招いたといえる。

福島の場合にも、情報開示が適切でないという批判がないわけではない。だがそれは、あまりにも深刻な事態に直面した現場が、混乱したことの影響かもしれない。

いずれにしても、原発事故は世界中の問題として受け止めねばならない。


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このページは、が2011年3月22日 20:08に書いたブログ記事です。

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