人の出生を云々して誹謗・中傷することをバーセリズム(Birtherism)というのだそうだ。いま、これの最も大きなターゲットになっているのは、オバマ大統領だ。彼を毛嫌いするアメリカ人は、保守派を中心に多数いるが、彼らがオバマ氏を攻撃する最大の論拠は、オバマ氏はアメリカで生まれたのではないのだから、アメリカの政治にかかずらう資格はないというものだ。
これが根拠のない言い分であることは、言っている当の本人を含めて、誰にも明らかだ。だが人を中傷するのに、根拠は大して問題にならない。どんなことでも、相手の人格を貶め、その社会的な評判に傷をつけられれば、違法にならない限度において利用される、それが誹謗・中傷というものだ。
根拠のないことでも、大勢人間がいる中では、信じるものがいるかもしれない。信じられないことでも、繰り返し吹き込まれれば、信じるようになるかもしれない。人身攻撃とは、そういう非合理な感情に基礎を置いているものなのだ。
ところで、人間集団の社会心理現象は面白いものだ。オバマ氏に向けられているバーセリズムの矛先が、オバマ氏の最大の政敵として自他共に認めているサラ・ペイリン女史にも向けられているというのだ。Shame on the Trig-truthers' Sarah Palin hateThe flipside of Obama birtherism is the Trig conspiracy theory about Sarah Palin. Liberals must disown such creepy misogyny By Megan Carpentier
ペイリン女史は2008年4月に次男のトリッグを出産した。ところがこの年は、彼女が共和党の副大統領候補として大統領選挙を戦った年だ。ペイリン陣営は、出産後に本格的な活動をしたと説明しているようだが、外野席はそうは受け取らない。大統領選挙を戦うというのは大変なことで、一朝一夕の準備でできるものではない。少なくとも2007年から事実上の選挙戦は始まっていた。そうすると、彼女には子どもを産んでいる暇などなかったはずだ、というわけである。
そこで、彼女が産んだというのは虚言で、実は彼女の長女が生んだ子を、自分が産んだことにしているに違いない。なぜなら彼女の長女はまだティーンエイジャーだから、余計な恥をかかせたくなかったのだ、こんな評釈までつけられたが、その長女が、トリッグの生まれた8ヵ月後に別の赤ん坊を出産した。
こんなわけで、ペイリン女史の出産をめぐって、ちょっとしたスキャンダラスな論争が巻き起こった。
もしトリッグが本当にペイリン女史の子どもなのだとしたら、ペイリン女史は、公衆の面前で膨らんだ腹を披露していたはずだが、誰もそのことに気づいたものはいなかった。彼女が妊娠した状態で大統領選を戦ったなんて、どう考えても、不自然だというわけだ。
これに対してペイリン女史を支持する人たちは、ペイリン女史は普通の女性とは異なった特別の能力をもっているのであり、妊娠したから腹がブクブク膨らむという考えは、彼女の場合には当てはまらない、彼女はスマートな腹を維持したままで子どもを産むことができる稀有の才能を恵まれているのだ、まして腹の中に子供を宿したまま大統領選挙を戦うなんて、朝飯前だといわんばかりに、女史を擁護した。彼女の生殖器官は、彼らにとっては、大地のように豊穣なのだ。
どちらの言い分も、妊娠した女性を不当に差別的に取り扱っている点で五十歩百歩だ、とコラムニストのミーガン・カルパンティエはいう。ある意味では、オバマ氏にたいするバーセリズムより、悪質なバーセリズムだと。(写真はペイリン女史と次女のウィロウ、ウィロウが抱いているのは弟のトリッグ:AP提供)
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