福島第一原発の事故を受けて、世界中で原子力発電所の安全性に関心が集まっている。この機会に原子炉の安全対策を徹底的に見直そうとする動きもある。そんななかで、いま最も注目されているのが、アルメニアのメツァモール(Metsamor)原発だ。(上の写真:AFP提供)
メツァモール原発は1980年に作られたロシア製の加圧水型原子炉だ。ほかの国の原発と比べて極端に老朽化しているというわけではないが、安全上大きな問題を抱えているといわれる。
ひとつは、チュエルノーブィリと同じく、格納容器を持たず、事故が起きた際には、放射能が直接大気中に放出される危険が高いということである。
もう一つは、世界で最も地震発生頻度の高い地帯に立地しているということである。トルコからアラビア海にかけての断層地帯は、地震の巣として知られ、過去の歴史上何度も大地震に見舞われてきた。
1988年のスピタク地震は、マグニチュード6.8の規模だったが、震源地から100キロ離れたメツァモール原発にも深刻な影響をもたらした。その結果、6年半にわたって閉鎖される事態になった。
アルメニアは原子力エネルギーへの依存度が高く、メツァモール原発は国内のエネルギー総量の40パーセントを供給してきた事情があったため、その閉鎖は、深刻なエネルギー不足をもたらした。冬の寒さが厳しいアルメニアにとって、電気のストップは死活にかかわる事態だった。それ故、アルメニア政府は、この原子炉を、十分な安全対策の保障がないままに、再開したのだった。
今後アルメニア政府は、ロシア政府の援助を受けて、同じ地に、より安全な原子炉を建設し、2016年を目途に、今の原子炉の廃炉手続きを開始する計画である。それまで国民の安全をどう守っていくか、アルメニア政府にとって最大の課題となっている。