東大のロバート・ゲラー(Robert Geller)教授が日本の地震学を厳しく批判した記事を、科学雑誌NATUREの電子版に寄稿している。(日本の地震学、改革の時)
それによれば、日本の地震学は誤った想定に支えられており、日本政府もそれを鵜呑みにして地震対策を立てているために、今回の東日本大震災にも適切に対応することができなかったという。
教授はまず、日本の地震学者や原子力関係者たちが、今回の大震災について、「想定外」という言葉を連発しているのは、責任逃れ以外の何者でもないと、強く批判する。
三陸沖にマグニチュード9程度の地震が起き、その結果巨大津波が発生する確率は、過去の歴史や今世紀に入って記録されている巨大地震データを分析すれば、十分に想定されたことだという。だからそれを想定外というのは、専門家の自家撞着でしかない。というのは、想定できなかったというのではなく、あえて想定しなかったということだ。
一方で地震の専門家たちが想定したうえで、大規模な地震対策を繰り広げる根拠としているのは、東海、東南海、南海地震のケースだ。
地震学者は、過去に起きた地震のデータをもとに、その延長上に、マグニチュード8の地震が、今すぐにでもこの地域におきておかしくないとし、それに備えた大規模な地震対策の必要性を訴えている。政府はそれに応える形で、「大規模地震対策特別措置法」を制定し、国民に対しても、地震にたいする備えを呼びかけている。その結果国民は、今すぐにでも東海地震が発生するかもしれないと、あまり根拠のない恐怖におびえている。
根拠がないというのは、地震予知のシステムが科学的とはいえない前提に立っているということらしい。地震が予知できるという前提自体が、世界の地震学の共通認識になっていないばかりか、想定できる地震の規模をマグニチュード8以下に設定することにもなんら根拠がない。つまり欠陥だらけのシステムに基づいて、地震対策がなされてきたというわけである。
こうしたことが複合的に作用して、地震対策の現場には、巨大地震のケースとしては東海、東南海、南海を想定すればよく、それもマグニチュード8が限度だという誤った認識がはびこるようになった。これが教授の基本的な考えである。
そこで教授は、日本の地震学者に向かっては、いまの時点では地震は予知できる段階に至っていないこと、したがって特定の場所に限定した地震対策はナンセンスだということを十分理解したうえで、正直な議論をするように呼びかけている。
つまり自分たちの知っていることの限界をオープンにし、巨大地震は日本中のどこでも起こる可能性があること、しかも今まで想定外とされてきた規模の地震も起こる可能性があることについて、議論する必要があるという。
また政府に対しては、東海地方周辺に限定した「大規模地震対策特別措置法」を廃止し、より地震の実態に即した対策を立てるようにすすめている。
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