日本政府は、福島原発の事故現場で働く作業員の健康状態を、将来30年間にわたってチェックすると決定した。放射能の被ばくが人体にどのような影響をもたらすか研究し、医療上必要な場合に、必要な措置がとれるようにするためらしい。
一方政府は、福島原発の安全を確立するために働いている現場の作業員に関して、被曝の限度量を、今までの法律で定められた100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げることを決めていたが、現場にかかわる企業の間では、この基準を受け入れるところはない。
政府がいくら安全だといっても、深刻な作業員不足を前に、苦肉の策として引き上げたのではないか、そういった疑心暗鬼が解消されていないことの表れだ。
その裏には、政府のいうことを100パーセント信用できないという、国民の不幸な気持ちが働いている。
だいたい一方では、健康に影響はないから250ミリシーベルトの被ばくまでは我慢せよといいながら、他方では、被曝の結果が重大な事態をもたらすこともありうるから、30年という長期間にわたって追跡するなどと、それこそ矛盾したことをいうわけだから、額面通りに信じることができないのも無理はない。
この話の延長線ではないが、政府の呼びかけが問われているシーンがもう一つある。それは原発事故の影響を受けて、消費者から拒絶されている農産物や水産物のケースだ。
福島県をはじめ、原発に近い地域の農産物や水産物は、市場から事実上締め出されてきた。そんな不幸な事態をいくらかでもなくそうと、枝野官房長官ら政府高官自らが、そうした農産物を消費しようと国民に呼びかけているが、なかなか思い通りに行かない。
というのも、政府のいうことをどこまで信用したらいいのか、消費者も疑心暗鬼の気持ちでいるからだ。消費者の疑心暗鬼は、政府高官がトマトを食うポーズをとったくらいでは、容易に消えるものではない。
だいたい日本政府は、国民を無用の混乱から遠ざけるという建前に従って、これまで国民に対して十分な情報開示を行ってこなかった。場合によっては嘘に近いことまで言ってきた。そのことのツケが、今になって、こういう形で表れているのだと思う。
情報を国民に対してきちんと伝えない政府の態度は、国民を愚民視するものというべきである。だが日本国民は決して愚民ではない。そんな自分たちを愚民視して、信頼できる情報を伝えない政府を、国民の誰が信頼できるだろうか。(写真はワシントンポストから)
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